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川口和久WEBコラム

巨人のマジック点灯は若手の赤信号じゃないよ/川口和久WEBコラム

 

これからの優勝争いで、若手はいい経験ができるはず


増田は鈴木尚広2世になるかもしれない


 8月の戦いは、めまぐるしかった。
 セでは、一時DeNA広島に飲み込まれるかと思った巨人が抜け出し、8月24日にはマジック20が点灯した。
 よく「野球は2アウトから」と言われるが、あの試合がまさにそうだった。
 東京ドームでのDeNA戦。5対2から8回に逆転され、9回には敵の守護神・山崎康晃だ。2三振で簡単に2アウトになり、スタンドの巨人ファンの8割は、勝利をあきらめたかもしれない。
 それも仕方ないだろう。打席にいたのは、8月大不振の重信慎之介だったから。

 ただ、重信がここで四球を選んだことで試合の流れが変わった。
 次打者は一発がある阿部慎之助で、走者の重信には足もある。1点差だったし、同点、サヨナラのリスクが一気に高まった、というか、何より山崎が「そう思っちゃった」んじゃないかな。明らかに顔色が変わって、突然、ボールがばらけ、連続四球。その後、坂本勇人のヒットで重信がかえって同点に追いついた。

 延長戦もそう。最後に決めたのは石川慎吾の2ランだったが、まず先頭で重信がライト前ヒットを打って勢いをつけた。
 ソロでもサヨナラだったじゃないか、というかもしれないが、試合って強烈なインパクトはないけど、節目節目で「そういえば、あいついい仕事したな」という選手がいるとうまく回っていく。 
 あの日は、それが重信だった。

 昔ならベテランや中堅の役割だったが、今季の巨人の野手では若手がその役を担うことが多い。重信(まだ若手でいいよね?)、若林晃弘田中俊太……脇役的な選手がポイント、ポイントで重要な活躍をしている。

 本当はガンガン前に出て主役の座を持ってくような若手選手が出てほしいのかもしれないけど、原辰徳監督の「そのとき一番いい選手を使う」という采配にピタリはまって、いいアクセントになってきた。

 増田大輝もそうだよね。バッティングは非力だが、足だけでも飯が食える選手だ。
 現役時代、まさにそのタイプだったコーチの鈴木尚広も言っていた。
「彼はプレシャーがかかっても、まったく動じずセカンドベースを盗むことができるタイプです」
 それは俺がコーチ時代の尚広だった。増田は彼の後継者的存在になっていくのかもしれないな。

 若手選手が躍動できるのは主軸選手がしっかりしているからでもある。あまりプレッシャーを感じず、思い切ってできるからね。この1年で大きな自信をつかんだという選手はたくさんいると思う。

 ただ、本番これからだ。マジックが出たことで間違いなく、すさまじい重圧がかかる。
 プレッシャーというのは面白いもので、それでつぶれたり、逆にパワーが出たりする。経験ある阿部や坂本はそういった重圧をパワーにできるはずだが、若手はそうもいかない。
 過去、プレッシャーが少ない場面では、いきいきとした活躍をしたのに、正念場になった途端、借りてきた猫みたいになった選手をたくさん見てきた。
 巨人の若手にとっても、これからが最後の“ふるい”のようなものかもしれない。

 でも、ここを乗り越えなきゃ、いつまでたっても脇役だ。重圧で体が思うように動かず、急に目の前が赤信号になったみたいに思うかもしれないが、違うんだ。まだまだ青信号のままだし、仮に黄色、赤になっても必ずまた、青になる。

 焦らず、しかも、貪欲に戦ってほしい。

写真=BBM
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