昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 張本勲に移籍話?
今回は『1968年9月30日号』。定価は60円。
9月17日からの
阪神─巨人戦(甲子園)に向け、ムードが一気に盛り上がってきた。
首位・巨人の失速もあって肉薄してきた2位の阪神。8月は19勝2敗というからすさまじい。
しかし9月11日から川崎での大洋戦にまさかの3連敗。12日の試合後(11日はダブルヘッダー)、阪神・藤本定義監督は「負けたワシがなにもしゃべれるわけがないじゃないか」とだけ言って、あとは何を聞かれてもだんまり。
ただ、外野の通用門に向かう途中、スタンドから
「やっぱりダメだな、藤本さん!」
という声が飛ぶと、恐ろしい形相で声の主をにらみつけ、
「何を言っとるか!」
と怒鳴り、そのまままくしたてた。
その1時間後、後楽園では巨人・
川上哲治監督が上機嫌。
「1年に一度あるかないかの好ゲームだった。よくやった、よくやった」
と甲高い声で話す。記者たちは「こんな川上監督は初めてだな」とささやき合ったという。
9回裏、2点差から苦手の
広島・
安仁屋宗八を打ち崩してのサヨナラ勝ち。うれしくないはずがないが、それ以上に、間近に迫ってきた対阪神の戦いを前に、もう負けられない、という気持ちが強かったからではないか。
すでに就任8年目、歴戦の指揮官となった川上だが、
江夏豊、
村山実、バッキーと3人の先発が調子を上げていた阪神は、かなりの脅威だったはずだ。
中6日の時代ではない。中3日で普通に回す時代に3人の完投能力ある投手がそろったら最強だ。
しかし15日、明暗は逆になる。
巨人は投壊状態の中、それでももっとも安定していた先発の
高橋明が
中日打線に打ち込まれ、敗戦。現天皇陛下、浩宮様が学友たちと観戦していた試合でもあった。
対して阪神はサン
ケイ相手に逆転勝ち(7対5)。打線では3打席連続本塁打の
カークランド、投げては好リリーフを見せた村山実が光った。
16日に1戦ずつをはさみ、いよいよ17日からの決戦。これは球史に残る戦いとなる。
次回でたっぷりとお届けしたい。
9月14日の大洋戦で広島の
外木場義郎が今季16勝目、さらにプロ野球10人目の完全試合を達成した。当時のセ・タイ記録16奪三振、ヒット性の当たりもない完璧なピッチングだった。
試合後、記者から「完全男は長続きしないというジンクスがありますが」と意地の悪い質問があったが、外木場はニヤリと笑い、こういった。
「知ってますよ。でもこれからAクラス入りと、防御率(この時点で2位)がありますからね」
パではオフに移籍の権利も手にする10年選手となる東映・
張本勲が他球団への移籍をにおわせていた。
10年選手のボーナスが要求どおり、もらえそうもないこと、あとは以前も書いたが、チーム内での立場が少し微妙になっていたことなどが要因だ(守備が雑だ、タイトルにこだわり過ぎなど、チーム内で批判があった)。
巨人とサンケイが獲得に興味を示していたという。
では、また月曜日に。
<次回に続く>
写真=BBM