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【MLB】2018年最強のレッドソックスはいかに作られたか?

 

2018年に世界一になった史上最強とうたわれるレッドソックスを数多くのインタビューを行いながら、一冊の本にまとめたスピアー記者。その著書「HOMEGROWN」の表紙カバー。興味深い内容になっている



 ボストン・グローブ紙のアレックス・スピアー記者が8月に「HOMEGROWN『ホームグロウン』」という本を出版した。日本の野球界の言葉なら「生え抜き」に当たる。

 ハーバード大出身、2002年からレッドソックスの取材を始め、一時期はベースボール・アメリカ紙の特派員として傘下のマイナーシステムを徹底取材した彼が、2018年の世界一なったレッドソックスがいかに作られたかを、あらためて取材し直し、執筆した。このチームは長い歴史の中でも特に強かった。

 公式戦で108勝。プレーオフもヤンキース、アストロズ、ドジャースと強豪と当たり続けながら11勝3敗。強さの土台は生え抜き選手である。11年の5巡指名ムーキー・ベッツ、15年の一巡(7番目)アンドリュー・ベニンテンディ、09年に16歳で契約したオランダ領アルバ出身のザンダー・ボガーツ、13年に16歳でサインしたドミニカのラファエル・ディーバーズ、11年の一巡(40番目)のジャッキー・ブラッドリー・ジュニア、08年の9巡クリスチャン・バスケスらである。

 同時に16年オフ、トレードでクリス・セールを獲得したが、そのときに交換要員として出したのがヨアン・モンカダ(キューバ出身、15年2月、6300万ドルで獲得)。マイケル・コーペック(14年一巡33番目)らだった。とはいえ、すべてがスムーズに運んだわけではない。

 例えばベッツは体が小さく、せいぜいユーティリティープレーヤーだろうと見られていた。それが13年に打撃開眼、5ツールのプロスペクトに変身した。14年6月にメジャー昇格。しかしながらその年、ベテラン選手のいじめにあったことをスピアー記者に明かしている。

 試合前に友人をクラブハウスに入れて中を見せたり、遠征で早く球場に入り過ぎたためにヒジ掛けイスで居眠りをしていたら、ベテラン選手に厳しく叱られ、監督に「暗黙のルールがある」と諭されるなどチーム内に古いしきたりが支配していた。 

 それが15年以降、次々に若手が上がってくると、古い選手とともに古い考えも消えていき、若手が溶け込みやすい環境に変わっていった。

 ドラフト指名のバイアスの話も面白い。長年レッドソックスは、投手は体が大きくてきれいな投げ方をしていれば良いと盲信していた。野手についてはベッツ、ブラッドリー・ジュニアなど、小さくても運動能力の高い選手を指名しスターを発掘できたのに、投手については先入観や偏見が強かったという。

 18年のチーム、生え抜きの投手はマット・バーンズ(11年の一巡19番目)、ブライアン・ジョンソン(12年の一巡31番目)、ブランドン・ワークマン(10年の二巡)らがいたが主戦投手ではなかったのである。

 ひとつのチャンピオンチームを作るには、フロントの戦略があり、細かいプランを長年に渡って注意深く、我慢強く実行していく。その中で期待の大きかったプロスペクトが失敗に終わり、無名の選手が急にはい上がってきたり、数え切れないドラマがある。

 現在43歳のスピアー記者が、これまでの何百というインタビューの末、書き上げた秀作。お薦めなのである。

文=奥田秀樹
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