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ドライチ候補・森下暢仁が最も尊敬する投手とは?

 

立大のエース左腕・田中誠也。2019年のドラフト目玉の一人である明大・森下暢仁が最も尊敬するピッチャーである


 10月17日のドラフトにおいて、12球団同時入札の1位重複が確実と言われている明大・森下暢仁(4年・大分商高)。153キロ右腕が、いつも「ライバル」として挙げるのは、立大の左腕・田中誠也(4年・大阪桐蔭高)だ。

 それは、なぜか?

「勝てる投手だからです」

 実績においては森下が上を行くが、田中のエースとしての立ち居振る舞いに一目を置く。この秋、森下は学生ラストシーズンの目標として、自身初の最優秀防御率のタイトル奪取を掲げる。田中は過去に2度受賞(3年春、4年春)。森下は「防御率=安定感=信頼」と受け止めているからこそ、田中をリスペクトしている。

 173センチ左腕の田中のストレートの最速は140キロ台前半。スピード勝負ではなく、スライダー、チェンジアップをコーナーに集めるのが真骨頂だ。何よりゲームメーク能力に長けている。大阪桐蔭高2年時には夏の甲子園で全国制覇を経験(控え投手)し、立大では2年春、35季ぶりのリーグ優勝、59年ぶりの大学日本一に貢献。3年時には大学日本代表でプレーし、4年春までにリーグ戦通算13勝(13敗)をマークしている。

 多くのキャリアを積んできたが、プロ志望届の提出は春の段階で見送った。卒業後は地元・大阪の社会人企業チームでプレーを続ける。あまりにも早い決断であったが、田中本人に聞くと、ハキハキとした口調で言った。

「実力がないからです。(提出しても)指名されるかどうか分からない。自信がありません」

 田中に質問をすれば、とにかく「勝ちたいんです」と強調する。リーグ戦開幕2日前に行われた記者懇親会では、森下や慶大の左腕エース・高橋佑樹(4年・川越東高)が「最優秀防御率」へのこだわりを明かした一方で、田中は「優勝したい。それだけです」と一切、個人タイトルには関心を示さなかった。

 しかし、現実は厳しい。今秋、立大は法大、慶大に勝ち点を落として開幕4連敗。まだ、シーズン序盤の第3週(最終週の早慶戦まで8週制)である。唯一の目標としてきた「優勝」は、極めて厳しい状況となった。だが、立大・溝口智成監督は必死に前を向いた。

「この段階で優勝を意識できなくなるのは不甲斐ない。でも、このまましぼんではいけない。4年生は最後のシーズン。ベストに持っていけるプレーをさせてやれるように、(私も)ベストの働きかけをしたい」

 田中にはルーティンがある。味方の守備が終わると、守っている8人全員とハイタッチを交わしてから、最後にベンチ前の円陣の輪に加わる。マウンドは孤独だが、決して一人ではない。バックアップしてくれる野手への感謝を忘れないのだ。そして、攻撃中はベンチを乗り出して、誰よりも声を出す。実際、気持ちを切り替えるのは難しいだろう。果たして、何をモチベーションにして投げるのか――。3年生以下の後輩に、最後まで戦う姿勢を見せることが、最高の置き土産となる。

 田中は対戦投手を「意識しない」と語るが、最終カードは10月26日から予定される明大戦。田中が意識しなくても、森下は必ず、意識してくる。大学野球の集大成を飾る意味でも、これ以上ないステージが残されている。

文=岡本朋祐 写真=菅原淳
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