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早大の今季初勝ち点奪取の背景に元プロ指揮官2つの「さい配術」

 

早大は明大3回戦を制して今季初の勝ち点。主将・加藤(背番号10)が3打数3安打と、小宮山監督の期待に応えてみせた


 東京六大学秋季リーグ戦で、早大が優勝戦線に踏みとどまった。1勝1敗で迎えた明大3回戦(9月30日)を制し(4対1)、今季初の勝ち点。ドラフト1位候補である明大の153キロ右腕・森下暢仁(4年・大分商高)を攻略する価値ある1勝だった。

 1回戦を落としてから連勝の背景には、元プロ指揮官による2つの「さい配術」があった。

 何しろ、ホームが遠かった。早大は開幕カードの法大戦で2試合連続完封負けを喫すると、明大1回戦でもシャットアウト負け。今春の慶大2回戦の8回に得点を挙げて以降、シーズンをまたいで37イニング連続無得点と、打撃不振が深刻だった。

 開幕3連敗を喫した後、早大・小宮山悟監督は「劇薬を投入するかもしれない」と示唆。その“クスリ”とは、開幕から3試合で11打数無安打の四番で主将・加藤雅樹(4年・早実)を外すことだった。しかし、思いとどまった。

「一人で苦しんでいる姿を見ると……。10(東京六大学の主将背番号)なので、ゲームから外れて勝っても、加藤が死んでしまう」

 小宮山監督自身も大学時代は主将を務め、名門・ワセダを背負う重圧は痛いほど分かる。NPB、MLBを通じて績十分の指揮官。プロならば、結果がすべてであるから、実力がなければ外されるのは当然のことだ。しかし、学生野球はあくまで学校教育の一環。小宮山監督は「教育的配慮」を選択したのである。

 明大2回戦を控えた安部球場(東京都西東京市)での練習で、加藤を呼び出した。

「代えないから。お前と心中するから」

 キャプテンのハートに火がついた。

「うれしかった……。(心に)突き刺さりました。(監督としても)勇気のあることだと思う」(加藤)

 試合前のミーティングでは「劇薬」どころか、独特の表現で選手たちをリラックスさせている。エース左腕・早川隆久(3年・木更津総合高)はこう明かす。

「アメリカのケチャップは、瓶に入っているからなかなか出にくい、と。自分たちも点は取れていないけど『1点入れば、どんどん点が入るようになっている。だから、まず1点を取ろう』というような話がありました。監督の言っていることは正しい。チーム全体が信じているからこそ、実践できたと思います」

 明大2回戦。0対0の5回裏、主将・加藤のタイムリーで42イニングぶりとなる、今季初得点を挙げた、その後も攻撃陣が息を吹き返し、6対2と雪辱。3回戦では1対1の9回表に加藤の二塁打を口火に打線がつながり、満塁から小藤翼(4年・日大三高)の走者一掃の左中間二塁打で3点を勝ち越し。4回途中から救援した2番手・早川が逃げ切った。

 加藤は3回戦で3打数3安打(1四球)と全4打席で出塁して、文字通り、WASEDAをけん引した。小宮山監督は「結果がすべて。赤いランプが点くと、楽になるんです」と、加藤の思いを代弁する。

 我慢のさい配が実り、主砲を目覚めさせた。「残り3カード、奇跡の8連勝をしたい」と指揮官は力を込める。現在のメンバーで優勝経験者は不在。「4年生はがんじがらめになっていた。こういった経験はなかなかできるものではない」(小宮山監督)。呪縛から解き放たれた早大。しかし、すでに3敗を喫していることから、後がない状況は変わらない。だが「もう、失うものはない」と、開き直りができるムードが出来上がった。2015年秋以来のリーグ制覇へ、早大ナインは目の前の一戦の勝利だけをつかみにいくだけだ。

文=岡本朋祐 写真=菅原淳
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