昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 江夏が女優と婚約?
今回は『1969年2月17日号』。定価は60円。
春季キャンプまっさかり。虎のファンの期待を一身に集めているのが、新人・田淵幸一だ。
キャンプ初日の打撃練習で早くもさく越えを飛ばし、東京六大学記録22本塁打が伊達ではないことを証明した。
辛口の評論家・
青田昇も
「こりゃわいわい騒がれるだけのことはある。いい素質を持っている。打率はあまり多く望めないが、ホームランはかなり打ちそうだ」
と珍しくほめていた。
高知安芸のキャンプ地には田淵目当てのファンが
大勢詰めかけ、練習後の宿舎にもサインを求めるファンが殺到。まさに“田淵フィーバー”だ。
「とにかく夢中でやっている。バッティングもまあまあだし、一生懸命やりますよ」
田淵は初々しく抱負を語っていた。
もともと数が多かった報道陣だが、2月5日から一気に増えた。目当ては、田淵と黄金バッテリーを組む
江夏豊だ。
2月5日、スポーツ紙で、江夏豊と女優の大信田礼子が婚約、という記事が出た。
大信田は江夏と同じく20歳。このときは「くれないお仙」というドラマに、かみなり嫌いのお銀役として出演。売り出し中の女優だった。
練習中からカメラマンは江夏ばかりを追い、この年からコーチ兼任となった
村山実から、
「撮るなら望遠使って遠くから撮らんか」
と怒鳴られていた。
あまりの騒ぎに江夏は記者会見を開き、「デマです。ガールフレンドというだけです」と付き合っていることは認めながら、婚約は否定した。
前述の青田が、古巣
巨人の臨時打撃コーチに就任したという記事もあった。選手たちからも信頼され、早くも次期監督候補の声が上がっていた。
川上哲治監督とは巨人のチームメートとしてホームラン王を争ったこともある。求道者的な川上に比べヤンチャながら明るい青田は、「じゃじゃ馬」とも言われ人気があった。
気性の激しい男で、ヤクザとのケンカなど荒っぽい逸話には事欠かなかったが、不思議と誰からも好かれ、あまり社交的ではなかった川上とも仲がよかった。
では、また月曜に。
<次回に続く>
写真=BBM