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週べ60周年記念

阪神の正捕手をめぐる田淵幸一とダンプ、ヒゲのライバル関係/週ベ回顧

 

 昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。

後藤監督も困り顔?


表紙は巨人高田繁



 今回は『1969年3月24日号』。定価は60円。

 新人・田淵幸一の人気が大変なことになってきた。
 例年、甲子園のオープン戦では、対巨人以外は3千、4千人くらいの観客だったのが、阪急戦でも1万5000人。田淵獲得に阪神が5000万、6000万円使ったとも言われるが、オープン戦だけでも、もとは取れそうな勢いだ。

 球団も上機嫌。戸沢球団社長は「開幕から田淵を使え」と大号令だが、後藤監督の表情はさえない。
「人気では断然田淵が上だが、安心して見られるのはダンプ(辻恭彦)や。ワシも困ってるのや」
 後藤監督にとって、田淵はまさに“腫物”だった。何か言うと、それがマスコミで大きく取り上げられ、戸沢社長にもやいのやいの言われる。
 内角に弱点があったので、
「もっと離れて構えろ」
 とアドバイスしたときは、今度はアウトコースに届かず打ち取られたため、その指導を面白おかしく書かれた。

 一方、田淵入団で割を食った男たちもいる。
 まずは、後藤が口にしたダンプ辻。前年、江夏豊とのバッテリーで評価を上げた男だ。少しずつ力をつけ、ヒゲ辻こと、辻佳紀をやっと抜いたかと思ったら、今度は田淵。しかも力ではなく、人気の問題で使われないとなると複雑な心境だろう。
 紅白戦では、マスクをかぶった際に田淵が打席に入ると、苦手と言われたインコースを厳しく攻め、意識したとみるやアウトコースで3打席3三振に(前述のシーンらしい)。
「打たせないようにするのは当たり前だよ。俺の生活圏の問題だからね。あいつがバリバリやれば、俺は影が薄くなるばかりだからな」
 と、寡黙な男は、ぼそぼそとした口調で言った。

 ダンプ以上に微妙な立場になっていたのが、ヒゲ辻だ。
 田淵の入団が決まった際には、そうでもなかった。広島、近鉄、阪急などからトレードの申し込みが阪神に届くなど、引っ張りだこ(?)状態。それでも阪神に愛着があるヒゲ辻は、契約更改の席で、戸沢社長に「私をトレードに出す気があるのかないのか」と問いただし、残留の確約を得た。

 ただ、キャンプ中にヒザを故障したことで、一気に意気消沈。もともと村山実、江夏豊と呼吸が合わず、バッキー専属の捕手とも言われていたが、そのバッキーも近鉄へ移籍。正捕手争いからは完全に外れてしまった。
 ヒゲ辻は言う。
「田淵には負けないよ。これからだってそうさ。でも、ダンプにはかなわん。あいつはうまくなった。肩もいいし、バッティングもいい。ああ力をつけられては、ワシの出番はない」

 あえて「田淵に負けた」ではなく、「ダンプに負けた」を強調するのもまた、この人の矜持なのかもしれない。

 グローバル・リーグの記事もあったが、これは長くなりそうなので、あしたに。

 では、また。

<次回に続く>

写真=BBM
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