週刊ベースボールONLINE

プロ野球20世紀の男たち

ジャクソン、ペピトーン、ハワード、デービス、グリーンウェル、メイ……「異文化がもたらした悲喜劇」/プロ野球20世紀の男たち

 

プロ野球が産声を上げ、当初は“職業野球”と蔑まれながらも、やがて人気スポーツとして不動の地位を獲得した20世紀。躍動した男たちの姿を通して、その軌跡を振り返る。

問題だらけのペピトーンも問題じゃない大物?



 異文化との出会いは歴史のエポックとなる一方で、衝突も呼ぶ。プロ野球が始まった1936年から外国人選手はいたが、ごく少数。60年代に入って各チームで急増したことで、彼らが巻き起こす騒動も比例して増えていった。

 現在のヤクルトがサンケイアトムズとなったばかりの66年に入団した“褐色の弾丸”ルー・ジャクソンは、ファンやチームメートの人気を集めた好漢だったが、極端な偏食で、食べる固形物は焼き鳥ばかりで、試合でも酒臭く、球団のツケで飲みまくっていた。だが、69年のオープン戦で腹痛を訴え緊急入院。周囲は仮病だと思ったが、シーズンに入ってチームメートのデーブ・ロバーツが殊勲打を放ち、「今日のヒットをルーに捧げたい」と言って涙を浮かべたとき、初めて尋常ならざる事態だと気づいたという。そして5月27日、膵臓壊死のため死去。球団葬での別所毅彦監督の「楽天家だったルー、おとぼけのルー……」という弔辞は涙を誘った。

 悲劇と喜劇は紙一重だという。外国人選手のトラブルは70年代に入ると、大金を費やした球団にとっては悲劇だが、笑えない冗談のような、悪質性をはらんだ喜劇性を帯びていく。ヤクルトが長年の功労者で、ファンにも愛されていたロバーツを解雇してまで73年に獲得したのがペピトーン。メジャー通算219本塁打の大物ではあったが、実力よりもトラブルメーカーとしてメジャー屈指と言われていた男だった。

ヤクルト・ペピトーン


 6月に来日。人は外見で判断してはいけないとは言われるが、コントのような口ヒゲにカツラ疑惑もささやかれる長髪という、いかがわしい外見で、そして人間性も見た目どおりだった。量産されたのは本塁打ではなくサボる言い訳。それはやがて言いがかりにエスカレートし、2年契約だったが、翌74年3月に解雇された。通算14試合、7安打、1本塁打、打率.163。ちなみに怪しげなヘアスタイルは堂々のカツラだった。

 問題のあることを問題だと思わないのは最大の問題だ。その74年、「ペピトーンも問題じゃない大物」と騒がれて太平洋へ入団したのがメジャー通算382本塁打のハワード。それにしても、どうして問題だらけのペピトーンをたとえに挙げて「問題じゃない大物」などと言ってしまったのか。「ハワードは何本のホームランを打つでしょう?」という懸賞も出した太平洋は地獄を見ることになる。正解はゼロだった。

20世紀の最後に阪神が見た悪夢


中日・デービス


 結果も残したが、それ以上の事件を起こしたのが2人のデービス。77年に中日へ入団したウィリー・デービスはドジャースで主将を務めたこともある安打製造機だが、塁上で奇声を上げて投手を愚弄するなど、奇行のほうがメジャー級だった。7月には月間MVPの活躍も、8月に骨折して帰国すると、チームはまとまり、5位から順位を上げて最終的には3位に滑り込んだ。

 84年に近鉄へ入団したマネーは4月下旬に早くも退団したが、きれいで明るい後楽園での巨人戦をアメリカで見て来日したものの「爆弾が落ちたような」(マネー)藤井寺球場と、それ以上にゴキブリがゾロゾロ出るマンションに家族が音を上げたことが原因。「近鉄球団にも首脳陣、選手にも責任はない。あるとすれば私だ」と言い切った真面目な選手だったが、その後任となったのが、5年間で117本塁打を残したリチャード・デービスだ。88年に大麻不法所持で逮捕。もちろん解雇された。

 20世紀の最後に悪夢が続いたのが阪神だった。97年に入団したグリーンウェルは5月に自打球で骨折すると、「神のお告げ」が聞こえたらしく、すぐ引退。翌98年に入団した投手のメイは、2年目の99年に野村克也監督を批判する怪文書をばらまき、2000年に巨人へ移籍すると、阪神に敢然と牙をむく。ただ、グラウンド内ではあったが、やはり野球ではなかった。タイム中に元チームメートでもある和田豊に危険球と投げつけ、試合が終わると「To him」(和田を狙った)と断言。当然、処分された。

 プロ野球に革命をもたらした助っ人もいれば、事件でしか語られない外国人選手も少なくない。名誉も語り継がれるが、それは不名誉も同様だ。

写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング