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神宮に確かな足跡を残した東京六大学初の「両投げ投手登録」

 

両投げの立大・赤塚は明大1回戦で今季3試合目の登板。投球練習では左でも投げるが、実戦では「右限定」での戦力となっている


 スクランブル登板にも、慌てなかった。

 立大の左腕・田中誠也(4年・大阪桐蔭高)が明大1回戦(10月26日)の初回、満塁本塁打を浴びるなど計5失点。安定感抜群のエースが、まさかの初回での降板である。

 2回表から急きょ、2番手として救援マウンドに上がったのは同じ4年生・赤塚瑞樹(麗澤瑞浪高)だった。

 マウンドに上がり、2球を投じると、左手にはめていたグラブを外し、右手に持ち代えると、左で2球。さらに、右で4球を投げ、淡々と投球練習を終えた。

 立大の登録用紙の赤塚の投打の欄には「両両」とある。つまり、両投げ両打ち。努力を重ね、4年秋にして神宮デビュー。東大1回戦でリーグ戦初登板(1回無失点)を果たすと、2回戦でも救援で2回無失点に抑えた。

 そして、迎えた明大1回戦。春の覇者に対して打者3人を、完璧に封じている。その裏に代打が出たため、1イニングのみのリリーフだったが、貴重な役割を果たした。赤塚のリズムの良い投球により、試合の流れを呼び戻した立大は、5点ビハンドを追いつく粘りを見せている(結果は延長12回、連盟規定により、5対5の引き分け)。

 これで3試合、4イニング無失点で一人の走者も許していないことになる。

 神宮デビュー戦、そして、明大1回戦をスタンドから観戦した父・浩樹さんは言う。

「明治が勢いづいていたので、準備もろくにできていなかったと思いますが、良い火消しができたと思います」

 赤塚本人は、左でも投げたい意向を持っている。しかし、あくまで立大・溝口智成監督は「右投手」の戦力としてベンチ入りさせた背景がある。チーム最優先。監督の指示であり、個人的な思いは封印するのも、当然である。

 愛用するグラブは両投げ用の特注品である。小学5年時、誕生日のプレゼントとしてもらった。12年目で、さすがに年季が入っている。軟式用ではあるが、頑丈につくってあり、硬式球でも痛みはないという。こだわりを持って、両投げに取り組んできた赤塚にとって、唯一無二のパートナーであり「宝物です」と、今後も大事にしていくという。

 1925年秋に発足した東京六大学リーグ。東京六大学野球連盟・内藤雅之事務局長によれば、95年に及ぶ歴史の中でも「記憶にありません。初めてではないでしょうか」と明かす。立大はこの明大戦が今秋の最終カード。赤塚は大学で野球を終える。卒業後は将来の指導者を目指し、自己のレベルアップのため、海外留学の準備を進めている。

 赤塚がマウンドで投球練習を開始すると、思わずどよめきが起こったスタンド。令和元年秋、初の「両投げ投手登録」として、神宮に確かな足跡を残した。

文=岡本朋祐 写真=桜井ひとし
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