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ベースボールゼミナール

キックバックとは? 投球にどのような影響をもたらす?/元阪神・藪恵壱に聞く

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。

Q.巨人の菅野智之選手が2017年のWBCに出場した際、メジャー仕様の硬いマウンドで投げたことで当初は下半身が張り、体が危険を察知し、キックバックが自然とできるようになったという話を聞きました。それに伴って、ボールの威力も増し、2年連続の沢村賞受賞です。エンゼルスの大谷翔平選手もキックバックをするそうですが、そもそもキックバックとは何ですか。また、投球にどのような影響をもたらすのですか。(徳島県・18歳)



A.着地側の足を強く蹴って、足が後ろに後退する動き。ホーム方向への力が加わり、右腕の加速を促す


イラスト=横山英史


 キックバック(kick back)とは、直訳すると『蹴り返し』となりますが、投球モーションの際に大きく踏み出していった左足(右ピッチャーの場合)を着地後、右腕を振り切るタイミングで、地面をひっかくように手前に引き戻す動作のことです。(※着地側の足を強く蹴って、足が後ろに後退する動きで、後退する動きが見えなくてもヒザを素早く伸ばす動作はキックバックの1つと考えられます)。

 一般的に、踏み出したサイドの足は、着地したらそのままの位置にあって、投球動作を受け止めるのですが、エンゼルスの大谷翔平選手が日本ハム在籍時から“キックバック”をしていたことで注目を集めるようになりました。ただ、菅野智之選手が話しているように、「キックバックしよう」と思っても、なかなか意識してできるものではなくて、大谷選手も無意識化でキックバックしているのではないでしょうか。

 日本の柔らかいマウンド(今季よりメジャー仕様で硬いマウンドが増えたそうですが……)ではどこまで効果があるか分かりませんが、着地した左足のスパイクの歯を利用して、地面をひっかくわけですから、その分、体にはホーム方向への力が加わり、右腕の加速をさらに促して、ボールにもプラスの力が働くことが考えられます。あれだけハイレベルにすべてをこなす菅野選手が、このわずかな変化に効果を自覚しているのですから、そうなのでしょう。

 また、菅野選手も「体が危険を察知して」と話していますが、キックバックには力を加える役割と、硬いマウンドから力を逃す=ケガの予防の効果もあることを忘れてはいけません。リリースの後の減速で下半身、肩・ヒジへのダメージを軽減しているのです。

 メジャーのマウンドでキックバックができるようになったのは、日本よりも硬くてスパイクの歯が引っ掛かりやすいからでしょう。実は日本の柔らかいマウンドに比較して、メジャーの硬いマウンドのほうが慣れてしまえば下半身の力を余すことなくボールに伝えることができます。その代わり、慣れるまではお尻やモモが張り、うまく対応できないと故障につながることも。そのような環境下でWBCとそれに向けた準備の短い期間の中で、キックバックという形で答えを見つけた菅野選手の対応力はさすがと言えるのではないでしょうか。

●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。

『週刊ベースボール』2019年9月23日号(9月11日発売)より

写真=BBM
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