読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は内野守備編。回答者は現役時代、7度、ゴールデン・グラブ賞に輝いた、元中日ほかの井端弘和氏だ。 Q.3月のメキシコとの強化試合で侍ジャパンのショートに吉川尚輝選手が起用されました。所属の巨人では昨季以降、レギュラーとしてセカンドを守っていて、「東京五輪での代表入りも」という記事も目にしました。巨人入団1年目から指導している井端さんは、吉川選手の守備をどう評価していますか。また、彼の良いところとはどんなところですか。(千葉県・22歳)
A.スピードをコントロールできるようになればショートに戻った際や、ベテランになってもプラスに
前編の続きです。腰痛からの一軍復帰を目指している吉川尚輝選手ですが、実戦感覚を取り戻すために二軍の試合では腰への負担が少ない外野手(レフト)で出場し始めているようですね。試合に出続けても腰に問題がないと分かれば、セカンドに戻るようですが、何事もないことを祈るばかりです。
さて、前編では吉川選手が
広島の
菊池涼介選手をしのぐ一瞬のスピードと動きを持っていること、一方でそのスピードをまだコントロールできておらず、自在に制御できれば超一流の内野手になれること、そして、不慣れなセカンドでレギュラーを取るために、入団直後は「動き過ぎに注意」というところから練習をスタートしたことを解説しました。
吉川選手はアマ時代、ほぼショートを守ってきたそうです。捕球後、スローイングまで時間的な余裕のないポジションでずっとプレーしてきたわけですから、このテンポの違いには相当苦しみました。捕球したはいいですが、ファーストがベースに着き切れておらず、間をおいて投げたらリズムが作れずにコントロールミス……ということもありました。
ただ、これはスピードをコントロールできないでいた吉川選手にとって、良い試練だったと思います。一言で言えば“バランス”ですが、相手(ここではファースト)に合わせることも必要な技術で、それは自分自身をコントロールすることにつながっていくからです。
当初のプランでいけば、いずれはジャイアンツでもショートを守ることになるのでしょうが、直線的なスピードはそもそも持っていて、それをコントロールする術を身につけておけば、それは大きなプラス要素で、鬼に金棒です。また、30歳を超えたときに、スピードだけでは生きていけないわけですから、捕球の技術、バランスを含め、鍛えておくにこしたことはないと思います。
当初、吉川選手を侍ジャパンに呼ぼうと考えたのは、二遊間両方を守れる(代表レベルの)選手が12球団を見渡しても吉川選手しかいないと判断したからです。しかも、走力もあるので、ランナーとしても計算が立ちます。五輪本番は登録人数がWBCやプレミア12のような国際大会の28人よりも4人少ない24人と限られており、両方できるというのが強みでした。今後に注目ですね。
<完>
●井端弘和(いばた・ひろかず)
1975年5月12日生まれ。神奈川県出身。堀越高から亜大を経て98年ドラフト5位で中日入団。14年に巨人へ移籍し、15年限りで現役引退。内野守備走塁コーチとなり、18年まで指導。侍ジャパンでも同職を務めている。現役生活18年の通算成績は1896試合出場、打率.281、56本塁打、410打点、149盗塁。
『週刊ベースボール』2019年10月7日号(9月25日発売)より
写真=BBM