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慶大が東京六大学でV奪回を遂げた3つの要因

 

苦い記憶を忘れないために


慶大は東京六大学リーグ戦で3季ぶり37度目の優勝。就任5年目の大久保秀昭監督は、場内インタビューで感極まっている


 東京六大学リーグ戦で慶大が早大1回戦を制し(7対1)、3季ぶり37度目のリーグ優勝を飾った。

 なぜ、慶大はV奪回を遂げたのか。3つの要因を挙げてみたい。

 最大の原動力は、昨秋の屈辱的な敗北にある。46年ぶりのリーグ3連覇まで「あと1イニング」とした早大3回戦。9回に1点リードを守れず、痛恨の逆転負け(4対5)を喫した。新チーム結成以降、この屈辱的なスコアを慶大グラウンドの得点版に掲示。言うまでもなく、苦い記憶を忘れないためだ。

 慶大は今春、早大から2勝1敗で勝ち点。優勝をかけた伝統の一戦ではなかったが、ライバルを相手に一つの目標をクリア。役目を終えたとして、グラウンドのスコアは一度外した。しかし、この秋、開幕8連勝とした明大戦後、再び、得点版を「4対5」に戻している。その理由を、チーム運営には欠かせない副主将兼学生スタッフの金澤爽(4年・済々黌高)は「僕たちのスタートは(早大3回戦の)昨年10月29日にある」と明かす。

「部員163人が『絶対に勝つんだ』ということを共有してくれた」(慶大・大久保秀昭監督)。その思いは、現役部員だけではなかった。試合後、三塁側ロッカー前には昨年の主将・河合大樹、学生チーフスタッフ・泉名翔大郎の姿があり、2人の目は充血。頼もしい後輩が1年後、先輩の無念を晴らした。

 2つ目の要因は、早慶戦を過剰意識しなかったことにある。最終週に組まれる単独カード。早大、慶大とも「早慶戦は別」と、対抗心をむき出しにくるのが伝統として色濃い。

 昨秋、慶大は早大戦前日の練習を終えると、全員で応援歌『若き血』を歌って、士気を高めたという。しかし、今年は違った。

「早稲田に勝つのは、慶應の使命。力み過ぎたり、地に足がつかない。経験がないと、そうなりかねないことも多々ある。ただ、この秋は、強く意識させすぎた反省も踏まえて、普段どおりの練習。(早慶戦だ! とは)訴えていない。当然、理解した上でやってほしい、という気持ちでした」(大久保監督)

 今秋の早大1回戦の先発9人のうち、7人が昨年の早大3回戦でプレー。慶大は学習能力のあるエリート集団である。一つ勝つことの難しさ、アウト一つ取ることの苦労を知っているだけに、必要以上の指示はいらない。つまり、経験値こそが、力となったのである。

監督の野球観を表現する捕手の存在


 3つ目の要因は正捕手で主将・郡司裕也(4年・仙台育英高)の圧倒的な存在感である。

 大久保監督は社会人野球・JX-ENEOSの監督時代、2012年に都市対抗と日本選手権を連覇、さらに13年の都市対抗を連覇し、社会人二大大会での3連覇で「15連勝」。都市対抗においては、14年の準決勝で敗退するまで「13連勝」と、驚異的な数字を残している。

 今秋の慶大はリーグ制覇を遂げた早大1回戦までに、開幕9連勝。大学と社会人でカテゴリー、試合形式(大学はリーグ戦、社会人はトーナメント)が異なるとはいえ、勝ち続けるための要因を大久保監督に聞いた。

「監督の野球観を表現する意味で、捕手の存在が大きい。エネオスでは山岡(剛、早大、現JX-ENEOS監督)、日高(一晃、筑波大)で、今回は郡司。その辺の理解が大きい」

 大久保監督は桐蔭学園高、慶大、日本石油、近鉄を通じて捕手だった。1年秋からマスクをかぶる司令塔・郡司は中日からドラフト4位指名。優勝を決めた早大1回戦では2打席連続本塁打(通算11号)に好リードと、まさしくMVP級の活躍ぶりであった。

 負けが人を育てる――。さらに、経験値と指揮官の考えを体現できるリーダーの統率力。慶大はチームスポーツにおける勝つために必要な条件を、秋の神宮で示してくれた。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
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