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侍の8回を担う男、オリックス・山本由伸の光る技

 

プレミア12ではセットアッパーを務める山本由伸。武器は何も最速156キロのスピードだけではない


 テレビで放映していた、とある球種の握りが目についた。

「覚えようと思って覚えたわけではないんです。たまたまテレビでやっていて。試しに投げてみたら、投げられた」

 画面に映っていたのは、MLB通算303勝を誇る左腕・ランディ・ジョンソン(元マリナーズほか)のシュートの握り。左右の違いはあれど、大事なのは握り方や曲げ方などの理論を把握すること。そこから自身の感覚で習得していけばいい。だから、さほど時間は要さなかった。

 さらに、習得に踏み切ったのには大きな理由があった。それは今季の開幕前に志願した“先発再転向”だ。今春のキャンプで右腕は、こう語っている。

「スライダー、カットボールはこっち(右打者の外角)に曲がるのに対して、シュートは逆(右打者の内角)に曲がるので配球の選択肢が広がる。それに、先発に戻ったら、もっと球種が必要だなと考えていました。そうすれば、毎回『新しい自分』で勝負できる。対戦するたびに『違うピッチャーになる』くらいのイメージでいきたいんです」

 無走者の際、ノーワインドアップで投じる右腕だが、時折、クイックを交えるのも、“違う自分”の1つ。シーズンでは投球プレートを踏む位置を変えるなど“小さな変化”を交えていた。

 最速156キロの直球など、投じるボールの威力ばかりに目がいくが、打者を抑えるために思考をめぐらせる。試合中も笑顔を見せる21歳は「純粋に野球が楽しい。投げることが楽しい」と語る“野球小僧”。それゆえの向上心を持ち続けた結果、高卒3年目の今シーズンは12球団で唯一の防御率1点台をマークしてのタイトルを獲得した。振り返れば、習得したシュートが大きかったとも言う。

「シュートを覚えたことで、内野ゴロを打たせることができた。それでランナーがいても、ゲッツーに仕留めることができましたし。有効に使えました」

 打者を圧倒できた要因は快速球ばかりではない。昨日に開幕したプレミア12の日本代表にも名を連ねる山本由伸は、確かな投球術も持つ。その世界舞台では、ブレークを果たした昨季の主戦場“8回のマウンド”を任されている中で、日本人とはケタ違いのパワーを誇る外国人選手を相手に、時として“テクニック”が必要となる場面も出てくるはずだ。

「任されたところでしっかり投げたい。欲を言えば、より大事な場面で投げたいです」
 
 大会開幕直前に、そう語っていた剛と柔を併せ持つ右腕が、日本を勝利に導く。

文=鶴田成秀
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