担当スカウトは高校OB
九州学院高・川野は西武からドラフト4位指名。攻守走3拍子そろった遊撃手である
ドラフトとは、人と人との縁である。
西武から4位指名を受けた九州学院高・
川野涼多にとってまさに「意中の球団」だった。
3つの「強運」に恵まれた。
高校3年間を指導してきた、九州学院高・坂井宏安監督は明かす。
「私は良い『形』を持っている選手というのは、1年春から積極的にゲームで使っていきます。舞台役者も稽古場でできていても、本番でうまく演技できなければ、一流とは言えません。練習と、試合は違う。基礎ができている選手は実戦を重ねることが大切です」
川野を入学後、すぐに遊撃手で起用。2学年上には今季、高卒2年目で36本塁打を放った
村上宗隆(現
ヤクルト)がいた。超高校級スラッガーを視察するため、練習試合にはNPBスカウトが集結。自然と、攻守走3拍子そろった遊撃手のプレースタイルが目に入る。「あの1年生は、誰だ?」と、すぐにウワサは広がる。つまり、川野は早い段階からプロの前でアピールする機会が多かった。
西武の九州担当スカウトは九州学院高OBの
高山久氏。坂井監督の教え子でもあるが、あえて、一線を引いて接してきたという。
「彼にとっても仕事。やりづらかったとは思います。後輩だからといって、本人も過度に(上司に)推薦もできない。私も高山だからといって(特別な)情報を出すこともせず、他球団のスカウトさんと同じようにお付き合いしてきました。幸い、(ほかの地区のスカウトが視察する)クロスチェックでの川野の評価は高かったらしく、大阪遠征、東京遠征にも上層部の方が視察にお見えになるようになりました。熱心でした」
いくら西武側に興味があっても、ドラフト当日になってみないと分からない。横やりが入る可能性もある。10月17日、西武は無事に4位で指名できた。選手にとって、スカウトは「父親」のような存在。高山氏入団後、身の回りのことなど、さまざまな世話役となる。川野としてみれば、身近に高校の先輩がいるほど、ありがたいことはない。
あこがれの人の下で
川野を3年間指導した九州学院高・坂井監督
3つめの幸運は、あこがれの選手である。
川野は1年冬から右打者に加え、左打者にも挑戦。つまり、俊足を最大限に生かすため、スイッチヒッターに取り組んだ。あこがれの「遊撃手の両打ち」として挙げていたのが、西武・
松井稼頭央だった。今季から二軍監督を務める球団に入団できたのも、強運のほかにない。高卒であるから、じっくり育成されることが想定されるから、直接指導を受けるチャンスも多々ある。坂井監督は「スイッチヒッターでは日本でNo.1。(川野にとって)流れが良いと思う」とほほ笑んだ。
しかし、指揮官は表情を引き締めた。
「体ができ、瞬発力がついてくれば十分、やっていける。でも(ドラフト順位が)ビリ、という気持ちでやってほしい。それぐらいでないと、やっていけない世界だと思います」
しかも、川野はかつて
広島・
金本知憲、
オリックス・
イチロー、広島・
前田智徳、ヤクルト・
青木宣親らと同じ「出世順位」と言われる4位指名。やはり、運を引き寄せる力があるようだ。熊本が生んだスピードスター、先輩の村上に次ぐブレークを期待している。
文=岡本朋祐 写真=BBM