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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

1年前から世界で輝きを放っていた周東佑京の足。“恩師”のためにプレミア12で最善の準備をするだけ

 

赤星以来の衝撃


ソフトバンク・周東は育成選手だった昨年10月、侍ジャパンU-23代表として日の丸を背負い、銀メダルを獲得。落ち着いたプレーと、圧倒的な脚力は異彩を放っていた


「プレミア12」において「世界」を席巻しているソフトバンク・周東佑京の俊足。そのスプリント力を見ても正直、何も驚かない。

 2000年のシドニー五輪を思い出した。足のスペシャリストとして日本代表入りしたのがJR東日本・赤星憲広(のち阪神)。攻撃中は一塁コーチスボックスに立って、投手のクセや捕手の肩を間近で見て研究し「その時」に備える姿勢には、感心したものである。

 ちょうど1年前――。赤星以来の衝撃を覚えたのが、周東だった。

 侍ジャパンU-23代表入り。国内直前合宿を4日間取材したが、とても「育成選手」とは思えないオーラを放っていた。

 異次元のスピード。とにかく、速い。速すぎる。社会人チームとの強化試合。一挙7点を挙げた3回の攻撃で、二死走者なしから中前打で突破口を切り開いたのが周東だった。次打者の右前打でスタート良く二塁を回り、三塁まで一気に進塁。チャンスを広げる好走塁が相手バッテリーを揺さぶり、ビッグイニングのきっかけを作った。ほかの試合では本塁生還の際に、前の走者を追い抜いてしまいそうなほどのトップスピードには、仰天した。

 当時、入団1年目。周東にとって、支配下登録をかけた1日1日が勝負だった。群馬・東農大二高から東農大北海道オホーツクを経て、育成ドラフト2位でソフトバンクから指名を受けた。50メートル走5秒7の足を武器に、ルーキー年から二軍戦90試合に出場し、27盗塁でウエスタン盗塁王。若手の登竜門と言われるフレッシュオールスターでも優秀選手賞と、着実にステップアップ。だが、7月に大卒の同期入団の大竹耕太郎(早大)が育成から支配下登録。一軍で活躍する姿を見て「正直、悔しかった……。自分も一日も早く!!」と、大きな発奮材料となったという。

銀メダル獲得に貢献


 コロンビアで開催されたU-23W杯。トップチームを率いる稲葉篤紀監督は、海外での国際試合経験を積むため、U-23代表を指揮した。1年後の「プレミア12」も意識し、監督としてのステップの場として位置付けていた。

 周東は不動の「九番・右翼」で、全試合先発出場し、銀メダル奪取に貢献した。足だけではなく、守りでは補殺で何度もチームのピンチを救った。課題だった打撃でも、南アフリカとの一次ラウンドでは右越えの「プロ初本塁打」をマーク。稲葉監督は「あの足は魅力で、武器。相手チームにも重圧を与えられる」と、日本が得意とする機動力野球の象徴として絶賛した。だが、何より指揮官が評価したのは精神的タフさであったと思う。

 地球の裏側。日本とは異なる南米の環境で、10日間で9試合という超過密日程だった。こうした厳しい状況でも、周東は万全のコンディションを整えて、グラウンドに立ち続けた。コロンビアは治安が良いほうではなく、滞在期間中はホテルと球場の往復のみで、外出はほぼできなかった。本来ならば、フラストレーションがたまってもおかしくないが、周東は淡々とプレー。稲葉監督と接する時間も多く、絆が深まったのは想像に難くない。

 プロ2年目の今季、周東本人が描いていたシナリオ通り、支配下選手登録され、チームトップの25盗塁。昨年のU-23代表から唯一、トップチーム入りを果たした。まさしく、理想の出世街道を歩んだわけである。

「プレミア12」において大ブレークした感があるが、実は1年前から、稲葉監督の「秘蔵っ子」であった。だからこそ、神がかり的な好走塁にも、驚くことはない。強固な師弟関係に、全幅の信頼。昨年のコロンビアでの経験値が実を結んだのは、稲葉監督にとっても、これ以上の喜びはないはず。一方、ここまで引き上げてくれた周東にも「感謝」があるはず。“恩師”のため、試合終盤に控える大一番に備え、最善の準備を進めていく。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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