各球団は攻守走の「攻」の部分を高く評価
「速いストレートに対するミスショットが少ない」
「ワンスイングで真っすぐをとらえるの能力が高い」
「鎌ヶ谷で
大谷翔平の真っすぐをライトスタンドに持っていった……。驚きました」
彼のことを周りの選手に聞くとこんな答えが返ってくる。
今、12球団でも真っすぐをしっかりと引っ張れる左打者でトップランクに位置する選手。それは
福田秀平だ。私もバックネット裏から、または記者席から、時には実況席からその姿を、その魅力をしっかりと見て、伝えてきた。
今回のFA宣言によって、6球団が彼の下へラブ
コールを送った。
代走の1番手、信頼のおける守備固め……こういった評価は福岡ソフトバンクホークス時代の活躍を見れば周知の事実である。しかし、各球団は攻守走の「攻」の部分を高く評価していた。
「各チームにお会いして驚いたのは、打撃の評価をきっちりとしていただいていたこと。試合映像や実際に出場試合を見ての印象や結果はもちろん、データでの提示をしっかりと資料として出してくれた球団もいくつかありました」と福田は驚きの表情を浮かべた。
自らが近年、感覚的に手ごたえを感じていた部分が実際に数値となって可視化されていた。
「FAに関してはさまざまな先輩や同級生たちに相談しました。(宣言残留が許される)ホークスに居るんだから、ほとんどの方は宣言をしたほうが良いと言ってくれていました。その理由の多くが、自分の評価を他球団から聞ける最大の機会だということ。FAは移籍することはもちろんですが最も大きな収穫は自分の現在地や、これから必要な部分を他人から聞けることにあると実感しました」
2007年、高校生ドラフト1巡目でホークスに入団した福田の身体能力は当時から高評価を得ていた。多摩大聖ヶ丘高ではポジションは内野。高3時にスイッチヒッターへ転向して才能は開花し、高校通算38本塁打をマーク。甲子園出場経験はなく、部員20人ほどの野球部にあって一気にプロに注目される逸材に。プロでは5年目に外野手登録され、出場機会が一気に増えた選手である。
自分の感性を変える最大の機会
高校時代、同じ西東京には
斎藤佑樹率いる早稲田実業が君臨し、同世代のライバルの活躍を高校時代は羨望の眼差しで見ていたと言う。
「チームには
柳田悠岐もいます、他球団では
秋山翔吾もいます。2人とも同い年で同じ左バッター、そして外野手。彼らと比べて、いつしか己の役割は代走や守備固め、そして代打と決めつけるようになった自分がいました」
この言葉を発したときに福田はもっと悔しそうな表情をするのではないか、と思ってた。しかし、想像とは違っていた。
「実は起用方法は特に意識していないんです。今でも自分が最も生きるのはホークスのときと同じ起用法だと思っています。そこで結果を出せる自信もあります。ただ、環境を変えれば、この考え方をもしかしたら変えられるかもしれない。染み付いてしまった自分のスタイルを覆せるかもしれない。そう思うんです」
FAで他球団から自分の評価を知ることと同時に、福田は「プロ13年間で自分に刷り込まれてしまった感性を変えられるかもしれない」――そのきっかけをつかむ最大の機会ととらえていたのだ。おそらく周囲からはうかがい知ることのできない自分の中だけでの感覚であり、感性であると思われる。
レギュラーを獲ると宣言するのではなく、自分を変えられるかもしれない、また違った感性で野球に向き合えるかもしれない。自分にそんな期待を寄せてのFA宣言だった。
プロ野球選手にとって野球人生の大きな転換期となるFA権の行使。福田に新たな「FAの意味」を教えてもらうことができた。
新チームへ移籍し、染み込んでしまったスタイルを福田自身がどう変えられるのか? また変えていけるのか? 身体能力の高い、対応力のある選手だからこそ、新たな福田秀平が見られる――そんな期待をしてしまう2019年のストーブリーグである。
文=田中大貴 写真=榎本郁也