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川口和久WEBコラム

山口鉄也コーチ、第2の鉄腕サウスポーを期待してるよ!/川口和久WEBコラム

 

鉄也、少し心配があるんだけど……


現役時代の鉄也。まさに鉄腕だった


 2018年限りで引退していた山口鉄也巨人の三軍コーチになった。
 俺がコーチ時代、左のリリーフエースだった男。実働11年で642試合に投げ、273ホールドだから、まさに鉄腕だね。
 彼の経験や技術は、若い選手には、すごく貴重なものになると思う。  

 ただ、俺はちょっと心配しているんだ。
「鉄也、ちゃんと話せるか?」

 選手時代のあいつは本当に口下手。極端に言えば「はい」と「いいえ」くらいしか言わないヤツだった。
 しかも絵に描いたような好青年だからなあ……。

 二軍、三軍の選手は、未完成だけど、伸びしろがある。ただ、たいていは考えが甘い。なのに、そこそこお金が入ってくるから、誰とは言わんが、道を踏み外すこともある。
 彼らをうまく導き、しかも一軍の戦力にするには野球の技術指導だけというわけにはいかない。
 昔みたいに鉄拳制裁や「できなきゃやめろ!」と突き放すわけにもいかないから、押したり引いたりの駆け引きも必要になる。だから二軍(三軍)、特に投手コーチは、結構、年配の人がはまる印象がある。

 俺のコーチ時代は、小谷正勝さん、小谷じいちゃんがいて、山口も教え子の一人だ。
 小谷さんは、ものすごく引き出しがある人だった。誰にでも同じことを言うわけじゃなく、その選手が、どういうタイプの技術を持ち、かつ、どういう性格かが全部頭に入っていた。それで悩みや欠点があったときの言葉の掛け方も臨機応変で、うまい。俺もずいぶん勉強になった。

 鉄也もそういう意味では小谷さんからいろいろ勉強したはず。それに選手だったからあまり話さなかったのかもしれないけど、今は意外とよくしゃべってるかもしれないな。
 今度、練習を取材に行ってみよう。隠しマイクでもつけてもらってね。

 話は変わるが、今の巨人は左腕投手の強化が1つポイントでもある。
 俺がコーチの時代の左腕は充実していた。先発が内海哲也杉内俊哉、リリーフが鉄也。左投手がそろうと、チームの安定感も増す。

 そういえば、杉内も二軍コーチだが、あいつも鉄也並みに口下手だったな……。原辰徳監督としては、若いコーチも選手と一緒に成長してほしい、ということなんだろうね。

 杉内と鉄也は同じ左投手だけど、まったくタイプは違う。身長は山口が高いけど、歩幅は杉内が7歩、鉄也が5歩くらいかな。
 これは投球スタイルがあって、鉄也は腰の切り返しの速さが武器。軸をつくって瞬間的な動きで体を切り返し、腕を振り切る。
 対して杉内は、ゆったりと体を前に持ってきて粘る。打者からしたら無茶苦茶球離れが遅く見えるタイプだが、体をめいっぱい使っている分、どうしてもぶれやすい。
 エネルギーあふれるときなら平気だが、疲れがたまってくると、キレが落ち、制球も悪くなる。
 試合終盤に突然、崩れることがあったから、投手コーチとしては、その見極めに苦労した。

 タイプが違うから杉内から山口という左から左のリレーもあったが、そのとき俺はいつもより急ぎでマウンドに向かった。
 なぜか分かる?

 足場さ。杉内のステップで掘れた部分に鉄也の足が中途半端に入って滑るんだ。だから俺は、いつも必死に穴を埋めていた。「杉内、俺はお前の穴埋めじゃねえぞ」とか思いながらね。

 これから鉄也がどんなタイプのコーチになっていくか分からないが、やっぱり左の鉄腕を育ててほしいな。毎年60試合くらい平気で投げて5年以上君臨できるようなタフなヤツ。そんな左がいると、ベンチはすごく楽になるからね。

 要はお前みたいな選手さ。不器用だけど一生懸命で、いつもひたむきに投げる左腕だ。
 鉄也コーチ、第2の鉄腕、期待してるよ!

写真=BBM
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