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社会人野球へ恩返し。律儀な男、広島・長野が日産OBの野球教室に参加

 

身振り手振りで子供たちを指導


日産自動車OBによる野球教室に特別ゲストとして参加した広島・長野(左)は、子どもたちを相手に熱血指導していた(長野の右はHonda・西郷泰之ヘッドコーチ、東芝・平馬淳監督)


 NPB現役選手が、野球普及に一役買った。

 11月30日、日産自動車野球部(2009年限りで休部)のOBによる野球教室(小学生対象)が厚木市内の球場で開催された。

 同社野球部OB21人のほか「特別ゲスト」も14人参加した。かつて日産自動車とライバル関係にあった同じ神奈川のチームであったJX−ENEOS、東芝、三菱日立パワーシステムズ。また、同社野球部と縁のある社会人野球OBも名を連ねた。開会式で子どもたちが最も盛り上がったのは、広島・長野久義(元Honda)がアナウンスされた瞬間だった。

「まだ、覚えていただいていて、うれしいです(苦笑)」。お馴染みでもある、おどけて見せた長野。Hondaの本拠地は埼玉県狭山市である。日産との「縁」をこう、明かした。

「日大時代、2006年のアジア競技大会(ドーハ)で小山(小山豪=東洋大)さん、吉浦(吉浦貴志=熊本工高)さん、四之宮(四之宮洋介=青学大)さんにお世話になり、力になれるのならばぜひ、協力したいと参加させていただきました」

 律儀な長野らしいエピソードである。銀メダルを獲得した同アジア競技大会の22人メンバーは、社会人選手主体。大学生は長野を含め5人と、不慣れな海外の生活でもあり、年上の先輩たちを頼りにしていたのだ。

 この日は、都市対抗で通算14本の個人最多本塁打記録を持ち「ミスター社会人」と呼ばれた西郷泰之氏(三菱ふそう川崎→Honda)も参加。日大4年時、社会人2年目とドラフト指名を2度拒否し、3年間在籍した古巣・Hondaの大先輩との再会も果たし終始、リラックスした時間を過ごしていた。

 野球教室では、熱血ぶりを披露。身ぶり手ぶりで子どもたちを指導し、質問にも気さくに答えていた。フランクな長野の人柄が随所に出ていた。

「この参加者の中からプロ野球選手が生まれるかも? 僕はもう引退しているので、一緒にはできませんけど……ね(笑)。どこかで声をかけてくれたらうれしいですし、日産の皆さんもうれしいと思います」

 昨今の野球人口の減少に、長野も危機を感じている一人だ。

「来年は東京オリンピックが開催されますし、より多くの子どもたちに、野球を知ってもらう絶好の機会。野球の楽しさが分かってくれたら、うれしいです。こうしたイベントがまたあったら、参加したいと思います」

社会人野球への恩返し


 長野がこの少年野球教室に参加した意図は、もう一つある。社会人野球への恩返し、に尽きる。冒頭のように、都市対抗2度、日本選手権1度の優勝実績のある名門・日産自動車は現在、休部状態にある。

 本来は大卒でのプロ入りを目指していた長野だったが、意中球団であった巨人入りを貫くため3年間、社会人に在籍。「遠回り」ではなく、人生における財産だと思っている。だからこそ、社会人野球の役に立ちたいと今回、他社のイベントにも関わらず、足を運んだ背景がある。それが、社会人野球における人と人との「絆」でもあるのだ。

「一人の社会人野球ファンとしても復活して、強い日産が見たいです!」

 巨人から広島へ移籍して1年目のシーズンが終わった。「いろいろ大変なこともありました。特に移動……。良い経験をさせてもらいました。来年に生かせるようにしていきたい。子どもたちからはパワーをもらいました」。閉会式後は、参加者一人ひとりに丁寧(ねい)にサインと、最後までサービス精神旺盛だった。

 子どもたちにとっては一生、忘れられない記憶となった。そして、発信力のある長野のコメントが日産自動車へどう届くか――。多くの球界関係者から慕われ、野球ファンからも支持される理由が、よく分かる1日だった。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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