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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

プロ入りも視野に。高レベルの競争で成長を遂げる慶大の154キロ右腕・木澤尚文

 

新チームでは副将に就任


慶大の154キロ右腕・木澤は早くも、2020年のドラフト上位候補に挙がる。大学日本代表候補合宿でもアピールを見せた


 アマチュア野球シーズンはまだ、終わっていなかった。11月30日から12月2日まで3日間、侍ジャパン入りへ向け、愛媛・松山坊っちゃんスタジアムでサバイバルが繰り広げられた。大学日本代表候補合宿。来年はハーレム・ベースボールウイーク(オランダ)が予定(6月26日〜7月5日)されており、24人の代表入りをかけた選考の場であった。

 投手陣でアピールを見せたのは、慶大の154キロ右腕・木澤尚文(3年・慶應義塾高)である。紅白戦では150キロを計測。実は、今秋の悔しさをぶつける場でもあった。

 この秋まで慶大を指揮した大久保秀昭監督(12月1日からがJX-ENEOS監督に復帰)は、木澤を先発候補の一員として構想していた。今春のリーグ戦、早大2回戦で自己最速を計測するなど、過去最多のシーズン2勝を挙げて、秋は中心投手としての期待を受けていたのだ。しかし、右肩の違和感により、夏場の調整が大幅に出遅れた。戦線に戻ってきたのはシーズン終盤。結局、最終週、早大2回戦での1試合2イニングの救援登板にとどまった。

 慶大はリーグ戦で3季ぶりの優勝。チームとしての結果はうれしかったが、木澤には貢献できなかった無念さが残った。迎えた明治神宮大会。城西国際大との準決勝で登板の機会がめぐってきた。5回1失点。先発として最低限の仕事を果たしたが、同大会は4日間で3試合の過密日程。「明日(の決勝)もあるので、もう少し、リリーフ陣を休ませたかった」と語るのも本音。ただ一方で、本調子ではなかった中で、5イニングをつないだのは、貴重な役割を遂げたという見方もできた。

 慶大は決勝で関大を下して、19年ぶり4度目の優勝。4年生左腕・高橋佑樹(川越東高)が完封と、後輩・木澤にとしては、頼もしい先輩の投球をブルペンとベンチから見守った。同大会での木澤は、堂々と胸を張っていい「戦力」も、やはり、本人としては納得できる内容ではなかったという。新チームでは副将に就任。最終学年は文字どおり、屋台骨を支える立場となる。

指導者、先輩捕手への感謝


 木澤にはどんなに高いハードルでも、乗り越えるだけの強い精神力がある。高校3年春、右ヒジ内副じん帯を損傷。同夏の県大会はテーピング、ブロック注射、痛み止めの薬を飲んでの強行登板も、県大会決勝で敗退し、甲子園にはあと一歩届かなった。

 同夏以降、医師とも相談の上、リスクが高いとされた手術は回避。慶大では約1年間のリハビリ生活を送った。1年秋に投球練習を再開も、長いブランクの影響で指先の感覚が鈍り、まともにボールが投げられなかった。そんなどん底を救ったのが、昨秋まで助監督を務めた林卓史氏(朝日大准教授)だった。

「投球フォームの指導を、一からしていただいた。毎日、遅くまで付き合っていただき、ありがたかったです。今年からは竹内(大助)助監督から投球の考え方を教わっています。大久保監督にも、我慢して使っていただいた。この3年間、一つひとつ段階を踏んでいる状況です」

 2年春にリーグ戦デビューを果たし、同秋には初勝利。さらに、感謝してもしきれないのが、1学年上の正捕手・郡司裕也(4年・仙台育英高、中日4位指名)だという。

「ボールが荒れて、ストライクが投げられない時期から、ブルペンでも相手をしていただきました。当時はメチャクチャ、怖かったですが……(苦笑)」

 最後に実戦でボールを受けてもらったのが、明治神宮大会準決勝。本来の出来ではない中でも、良さを最大限に引き出してくれたリードに助けられた。頼れる先輩はプロ入りし、今度は投手が捕手を育てていく番である。

 慶大は今年10月17日のドラフト会議で4人(育成1人を含む)が指名を受けた。一方で2人が指名漏れと明暗が分かれた。双方を間近で見てきた木澤は、決意を新たにした。

「少しずつ、そういう(プロの)意識はある。とはいえ、やるべきことは山積している。まずはチーム内競争を勝ち抜いて、投手陣を引っ張っていきたい」

 冒頭の大学日本代表候補合宿には、慶大から右腕・森田晃介(2年・慶應義塾高)、左腕・増居翔太(1年・彦根東高)が参加。また、木澤の同級生で151キロ左腕・佐藤宏樹(3年・大館鳳鳴高)、右ヒジ手術からの復帰を目指す右腕・関根智輝(3年・都立城東高)も虎視眈々とベンチ入りを狙っている。競争はさらに激化していきそうだが、ハイレベルな争いの中で木澤が成長する環境が整う。

 12月1日から「投手王国・慶大」を指揮するのは堀井哲也監督。11月まで率いた社会人野球・JR東日本では都市対抗優勝など実績十分で、その手腕が注目されるところだ。

文=岡本朋祐 写真=山田次郎
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