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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

前を向き続けたオリックス・岸田護の思い

 

今季限りで現役を引退し、秋季練習で二軍投手コーチとして第一歩を踏み出した岸田護


 14年のプロ野球人生。だが、“野球人生”となれば、32年もの時間だった。小学1年生で野球を始めて以来、投手一筋。「たまたまストライクが入っただけ」と志願したわけではないポジションだが、マウンドに立ち続けたのは、高校、大学、社会人とステージが上がっても変わらぬ思いがあったから。

「打者に対して投げることが好きだったんです」

 だから、常に前を向き続けた。「悪いことは勝手に忘れてしまうし、試合のことだって覚えていない。(死球を)当てたバッターに翌日、謝りに行ったら別の人だったこともあるくらいですから(笑)。良いイメージを残し、より良い自分を目指してきた。目を閉じたときに、勝手に自分の良いイメージが浮かぶようにして」。

 それだけに故障がちのプロ野球人生は、苦悩の連続だったはず。だが「大事な時間でもあった」と話す岸田護は、しみじみと言う。

「ケガするたびに自分の体を見つめ直してきたんです。そのおかげで、長くできたのかな、と」

 先発、中継ぎ、抑えと、あらゆる起用に応え続けてきた代償ともいえる故障。もし、故障をしていなければ、万全の状態で投げ続けることができたのなら――。“たら、れば”を言えばキリがないが、現役を終えた今だからこそ思う“たら、れば”は、何かあるのだろうか。そんな問いに対する答えは「先発だったら、ですね」だった。

 その思いの根底には、冒頭のマウンドに立ち続けた理由と一致する。

「先発が好きだったんです。どんな打者に、どんなボールを投げて、どう抑えていくかの組み立てを考えるのが面白かった。抑えは真っすぐと押し切るなら、押し切ると、組み立てがないですからね。それに(2009年に)2ケタ勝って、志半ばで(10年途中から)リリーフになったというのもあるんです」

 決して後悔ではない。引退を決めた日から、現役最後の登板となった今季最終戦の9月29日のソフトバンク戦(京セラドーム)まで、トレーニングは欠かさず。『投手・岸田護』を貫いた姿勢が、与えられた仕事を全うする生き様を物語る。

「引退後に『何をしようか、何がしたいか』を考えれば、いっぱい思いついたはず。けど、考えないようにしていました。トレーニングをして、試合で投げる。考えていたのは、それだけ。そのことだけに集中しよう、と思っていたんです」
 
 そして10月に来季の二軍投手コーチ就任が発表された。打診された“仕事”に対し、前を向かないわけがない。

「もっと選手1人ひとりを知る必要がある。どうやったら良くなっていくのか、どうやったら調子を落とさず、ケガをせずにやっていけるのか。それを考え、選手をしっかりと見ながらやっていきたい」

 これからは将来ある若手の指導に全力を尽くす。来季で高卒3年目となる本田仁海や育成の東晃平ら、有望若手投手は多数。前を向き続ける右腕は、唯一の後悔「オリックスで優勝できなかったこと」をコーチという立場で成し遂げるため、来季もチームを支えていく。

文=鶴田成秀
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