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【MLB】マイナー球団削減案の是非

 

野球人気を支えている地方のマイナー球団が削減されると、プロ野球の未来に大きな不安要素が生まれてしまうのではないだろうか(写真はイメージ)


 アメリカのプロ野球で、いつも感心するのはすそ野の広さである。メジャー30球団だけでなく、全米に160ものマイナー球団が点在している。日本の25倍の面積2.5倍の人口だが、地方にいてもプロ野球を球場で堪能できる。しかしながら現在MLBが約4分の1のマイナー球団を削減しようと提案しており、波紋を呼んでいる。

 MLBと「ナショナル・アソシエーション・オブ・プロフェッショナル・ベースボール・リーグズ(マイナー・リーグ)」の間で結ばれていた協定が2020年シーズン後に期限切れとなる。新協定の話し合いが進んでいるのだが、MLBが42球団を削減しようとしているのだ。

 オーナー会議最終日、ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーが会見で削減の4つの理由を明かした。プロ野球の基準に満たない施設があり、トレーニング室、医療室、ロッカールームなど、老朽化がひどいこと。マイナー球団が地理的にばらばらに散らばっていてバスでの移動が過酷であり、育成中の金の卵たちの身体にマイナスでしかないこと。

 マイナー・リーガーへの給料は最低で月1160ドルと、アメリカの最低時給7ドル25セントを下回り、しかも残業手当もなし。選手の総数を減らせば、もっとましな金額を出せること。そしてマイナーにメジャー・リーグに昇格できる可能性がほとんどない選手が多過ぎること、だ。

「狙いは球場など環境を良くし、マイナー・リーガーの生活のレベルを上げること」だと言う。これに対しマイナー・リーグ側は大反対。「4分の1もマイナー球団を削る必要はないし、受け入れられない。選手やスタッフなど多くの人が職を失う上に、地方の経済にも大打撃を与える」という。

 地方出身のアメリカ議会の議員たちもこの問題に対して即座に行動を起こし、104人の議員が削減反対の意見書をコミッショナーに送っている。反対派が憤るのは、MLBが現在、歴史的に見ても一番儲かっており、オーナーは潤っているはずであるが、なぜ削減しないといけないのかという点だ。

 MLB球団にはすでに年平均4000万ドルの黒字があるのだが、ムダを省き、黒字額を上げられれば、MLBのフランチャイズの価値はさらに上る。先日売却された地方球団のカンザスシティ・ロイヤルズは、前オーナーが2000年に購入したときは9600万ドルだったが、それが10億ドルになった。

 価値が上がればオーナーはうれしいし、コミッショナーへの評価は上がる。長期政権を目指すマンフレッドコミッショナーはオーナーの機嫌を取るために、こんなことをしているというのである。もっともMLBが従来のマイナー組織のムダを省き、育成環境を向上させたいという説明もよく分かる。

 球団はマイナーの選手のためにボーナスを含め年間5億ドルものサラリーを払い、マイナー球団に送っている。その投資が実り、優秀な選手が育ってくるためには、より良い育成環境が必要なのだ。とはいえ、削減すればその街でプロ野球の火が消え、地元の子供たちが野球を生で楽しむ機会が奪われる。

 MLBにとって次の世代の野球ファンを増やすのも重要課題であるのだが、逆のことをしている。マイナー球団削減案。プロ野球の未来を左右するとても難しい問題なのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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