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【MLB】さよならハンバーガー・リーグ!?

 

多くの選手を獲得し、劣悪な状況下ではい上がってくるシステムとなっているマイナー。質の向上を目指すメジャーにとって改革が必要な時期にきているようだ(写真はイメージ)


 前回に続いてマイナー球団削減案について。かつてカージナルスの名GMとして名をはせ、1919年から42年の間に6度のナ・リーグ優勝、4度の世界一を成し遂げたブランチ・リッキーは巨大なファームシステムを築き上げた。

 質より量(QUANTITY OVER QUALITY)というか、量を通して質を得る(QUALITY THROUGH QUANTITY)考え方で、ライバル球団より大量に選手をかき集めることで、良い選手を手に入れた。37年にはなんと33のマイナー球団を抱えていたそうだ。

 たくさん抱え込んだほうが勝ち。その名残りだろう、MLBのドラフトも数が勝負だった。96年はなんと100巡1740人を指名している。98年以降50巡までになり1500人前後、2010年に40巡になり1200人前後の指名。だがこれでも多過ぎる。

 ドラフト3日目になると、有名フロント、監督、選手の子弟が指名されお遊びのようになっていた。それはそれで話題にはなるのだが、補強としてはムダでしかない。近年、各球団はスカウトの目とアナリティックの両方を生かし、才能を見極めるノウハウもより洗練されてきた。メジャーに昇格する可能性はまずない選手まで契約して、マイナー球団に送り込むのもムダである。

 それより選手の数もマイナー球団の数も減らし、その分個々のチームのトレーニング施設、メディカル施設など、育成環境を向上、金の卵を上手に育てていこうというのは懸命な考えだ。これまでは俗に「ハンバーガー・リーグ」とも呼ばれ、劣悪な環境の中ではい上がれた者だけがメジャー・リーガーになれる精神論だったが、現実にはハンバーガーだけを食べていたのでは良い選手には育たない。

 体を成長させるには借金をしてでも良いものを食べ、疲れが取れる良いベッドを購入するなど、工夫が不可欠。ダイヤモンドバックスに入団した吉川峻平投手は、アメリカのマイナーシステムの非合理性についてこう説明していた。

「5カ月間で150試合くらいこなして移動はバス。ミールマネーも少ないし食事も美味しくないと聞きます。 過酷だなと思うのは、お金がないのにお金をかけさせられるところ。給料が少なくて月に20万円も行かないのに、住む所は自分で探さないといけないし、体のことを考えれば食べ物にもお金を使わないといけない。お金を使わないと生きていけない世界に放り込まれているのに給料が少ない」

 5月に行われたカーター・スチュワートソフトバンクの入団会見でスコット・ボラス代理人はアメリカの育成環境のひどさを指摘している。「ソフトバンクの提供してくれる施設、コーチング、訓練計画が良い。しっかり身体を作れるし、ケガから守りやすい」と称えていた。

 環境がひどくても、お金がある選手はまだなんとかなる。先のMLBのドラフトでトップ指名の64人は契約金が100万ドル以上だった。一方で全体の40パーセントは1万ドル以下。すぐに底をつく金額だ。しかもアメリカの選手は春のキャンプに参加しても給料はもらえず、マイナー選手は日に20ドルから30ドルのミールマネーのみだ。

 キャンプはトライアウトで、まだ正式なメンバーではないという解釈で、1Aなり、2Aのチームに配属されてようやく安い給料が出る。ひどい待遇が才能を潰している側面もあるはず。「ハンバーガー・リーグ」にピリオドを打つ時期に来ているのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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