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「1986年の落合博満」を記録で読む。4月の出遅れと圧巻の2ストライクでの高打率/セ・パ誕生70年記念「よみがえる1980年代のプロ野球」

 

三冠王宣言も序盤は数字が伸びず


まさに円熟のバッティングを見せた落合


 セ・パ誕生70年記念「よみがえる1980年代のプロ野球」第2弾として、1986年編が12月27日に発売される(初出修正。すいません。第1弾は1985年)。
 西武清原和博が入団し、大フィーバーとなった年だ。

 ここでは、その中から2年連続三冠王に輝いたロッテ落合博満の記事を抜粋し、紹介する。

「今年も三冠王は俺が獲るよ」
 淡々と、されど、きっぱり宣言したロッテ・落合博満だが、だからと言って張り切って何かをしたわけではない。「野球は2月1日までやりませんよ」と自主トレは一切せず、バット、ボールに触れることもなかった(と本人は言っていた)。

 鹿児島での春季キャンプに入っても変わらずマイペース。「今さら技術うんぬんじゃないでしょ。バットを自由に操れる体さえつくればいいんだから」と、もっぱらノックやランニングに終始した。

 当初はオープン戦にも出場せず、初めての出場は5試合目の3月1日、巨人戦だった。相手の先発は左の宮本和知。落合には調整初期に左投手の球を打つとフォームが乱れるという持論があり、稲尾和久監督に許可を取ったうえで、2打席11球をすべて見送っての2三振で交代。
 試合後、「俺は俺のペースで調整している。開幕に合せてね」と平然と語った。

 ただし、序盤は苦しみ抜いた。
 4月6日、開幕の阪急戦(川崎)こそ、完封ペースだった山田久志から8回に2ランを放ち、順調なスタートを切ったかに見えたが、2号目がなかなか出ない。それでも「1シーズンのうち打てない時期が1週間、10日はあるもんだ。それがたまたま開幕にあたっただけ。騒ぐなって」と言っていた。

 その後も調子が上がらず、5月15日時点では、打率.284でリーグ19位、本塁打4本は16位、打点14は13位だった。
 しかし、この後、一気に巻き返し、5月31日時点で打率.339、9本塁打、24打点まで上げた。のち「本当は苦しかった、腰痛がひどくてね。ただ、だましだましやっていたら、自然と戻ってきたんだ」と振り返った時期だ。
 この後、ぐんぐん数字を上げたが、西武の秋山幸二がすさまじい勢いで打ちまくっており、6月14日時点で、打率.356、20本塁打、61打点で「三冠王」。同時点で、落合は.346、12本塁打、34打点と大きな差をつけられていた。
 しかし、そこから秋山が急失速。一方、落合の勢いは衰えず、7月7日に打率、本塁打でトップに立つ。

 ただ、そこから三冠王に向け、盤石の態勢に入ったわけではない。打点は変わらず秋山がトップを走り、打率は阪急のブーマーに抜かれ、一時、2分4厘差をつけられた。本塁打では、落合に11打点差で打点トップの秋山が追撃し、8月31日、35号で並んだ。

 それでも、最終的には打率.360、50本塁打、116打点で2年目連続三冠王に輝いた(85年は打率.367、52本塁打、146打点)。
 際どかったのは打点で秋山に1打点差だった。

85年の2ストライクからの打率は.374


プロ野球1980年代Part.2表紙


 85年と86年では、打球方向が多少変わった。ライト側が狭い本拠地・川崎球場の形状を生かし、ライトへのホームランが多いのは変わらないが、85年の21本に対し、16本と減っている。安打、全体の打球方向でも同様の傾向があり、安打は54本から40本、凡打も含めた打球でも85本から71本になっている。
 推測にはなるが、当初、西武・秋山に差をつけられたホームラン数を追撃するため、多少、引っ張り傾向を強めたということかもしれない。

 また、これは86年だけでなく、前年も含めてたが、2ストライク後の打率の高さは特筆ものだ。85年が.374、86年は.324といずれも3割台になっている。
 特に85年は全体の打率.367を2ストライク後の打率が上回った。

 本来、打者が追い詰められ、多少ボール気味でも手を出すしかない2ストライクからの打率は下がって当然のものだ。同じく2年連続三冠王のバース(阪神)は、85年が.251(全体.350)、史上最高打率.389をマークした86年でも.277と3割には届いていない。
 2019年の首位打者であれば、セの鈴木誠也広島)が.236(全体.335)、パの森友哉(西武)で.248(全体.329)となっている。

 もちろん、上には上がいるもので、1994年のイチローオリックス)の2ストライク後は.379。ただ、全体が.385だから相対的に見たら、わずかではあるが下がる。あらためて85年の落合がどれだけすさまじかったかがよく分かる。

写真=BBM
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