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川口和久WEBコラム

巨人に帰ってきた俺の現役時代のライバル/川口和久WEBコラム

 

理にかなったスイング


バンザイパフォーマンスでも人気だった



「オー! ノー! ノー! カワグチ、ノー!」
 引退した後も、俺の顔を見ると、いつもそう言う。

 もちろん、その後、笑顔で雑談になるんだが、確かに現役時代は、俺のことを本気で嫌いだったかもしれない。
 ほぼ完璧に抑え込んだからね。

 ウォーレン・クロマティ
 1980年代後半から90年代、巨人の三番として活躍した左打ちの助っ人だ。サウスポーの俺は、当時の外国人の左バッター、クロマティや阪神のバースにとって、天敵みたいな存在だったと自負している。

 クロマティは、ホームラン30本以上をマークした年もあるが、基本はホームランバッターではなく、巧みなバットコントロールで広角に打ち返すアベレージヒッターだった。
 勝負強く、ファンと一緒にバンザイをしたりと、派手なパフォーマンスでも人気だったが、実力も間違いなく本物。ここ一番の集中力は怖いくらいだった。
 
 彼のバットを見せてもらったことがあるが、手にしてみて驚いた。グリップの部分がゴルフのクラブみたいに細く、ヘッドはでかくて重い。「こんなバット振れるんだ」と思った。日本人の腕力では到底操れないだろうね。

 クラウチングの独特の構えで、変則派と思われがちだが、スイングは理にかなっていた。バットがインサイドから出てヘッドが遅れて出ていくアベレージヒッターのフォームだった。

 俺は彼をインハイで打ち取っていたけど、これが低くなって、少し距離が取れると、くるんと体を回して一、二塁間に運んだり、あとヘッドが遅れて出てくるからだろう。打ち取ったつもりの打球が、レフト前のポテンヒットになることも結構あった。
 日本で活躍する外国人バッターの特徴だけど、ボール球を無理やり打つこともなく、来た球への瞬時の反応もよかった印象がある。
 ファンに愛され、その期待に応えた、外国人選手史上に残る人気者であり、好打者だったと思う。

 今年の夏、東京ドームに行ったら、そのクロマティがケージの後ろにいた。聞くと、まったく無報酬で巨人に帯同し、選手にアドバイスを送っているという。
 原辰徳監督がいたんで「監督が呼んだんですか」と聞いたら、「うん、まあ、悪いことじゃないしね」と言っていた。原監督はクロマティと現役時代、三、四番コンビとなった仲間だ。

 若い選手をつかまえて、いろいろアドバイスしていたけど、彼は陽気だから自然と人が集まり、若い選手もカタコトの日本語に笑顔で耳を傾けていた。
 たぶん、彼らはクロマティの現役時代なんて見たことない。でも、今は便利な時代だからね。スマホで検索し、ユーチューブで映像も出てくる。彼がどんなにすごいバッターだったかもすぐ分かるはずだ。

 プロ野球のコーチ、特に一軍コーチは選手に一から教えるものじゃなく、ヒントを与える存在だと思う。クロマティはバットの出し方だとか、ポジティンブな気持ちの持ち方だとか、たぶんワンポイントしか言ってないと思うが、それがよかったと思う。
 今年の優勝の何パーセントかはクロマティの貢献もあると思うよ。

 バッター出身のコーチにも聞いたことがあるが、右打者はちゃんと振ってから走るけど、左打者は振りながら走るから、かなり技術も違うし、教え方も違ってくるらしい。
 来年からは正式にアドバイザー契約を結ぶらしいが、原監督は自分が右打者だったから、左打者の感覚をいろいろ教えてほしいんだろうね。
 明るいクロマティ・コーチの存在は、左右にかかわらず、チームの若手打者に、いい影響を与えると思う。楽しみだな。

写真=BBM
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