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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

引退を決意した大引啓次は野球界発展へ必ず力になる人材だ

 

浪速高2年春のセンバツで8強。大引啓次は高校時代から攻守走の3拍子で光っていた


 基本に忠実な遊撃守備に、ミートに長けた打撃。2001年春のセンバツで8強に進出した浪速高(大阪)の大引啓次の完成度高いプレーは2年生ながら、出場校の中でも際立っていた。

 さらに驚いたのが2年後、法大合流時のモチベーションの高さだった。毎年、法大における新1年生は大学の環境に慣れるまでは「お客さん」扱いであり、あまり、多くを期待されていない。しかし、初日から大引の動きは、他とはまったく違った。この日に合わせて、しっかり体を作ってきたのは明らかだった。彼に任せておけば4年間は安心だ! そう思わせるほどの意識レベルであった。

 1年春からレギュラー。法大では4年間で歴代5位の121安打。小早川毅彦(元広島)の114安打を更新し、大学史上最多安打を放った。早大・鳥谷敬(元阪神)が卒業した2004年から3年間は、大引が6シーズンのうち5季で遊撃手のベストナインを受賞している。リーグ優勝2回。主将としての存在感の大きさは、法大史上でも指折りであった。

 2007年からオリックス日本ハムヤクルトで計13年プレー。攻守に堅実なプレースタイル。野球に取り組む真摯な姿勢は模範的で、人望の厚さがあった。2019年10月1日、5年間在籍したヤクルトから来季の契約を結ばないと通告されたが、引退試合の打診も受けていたほどの功労者。しかし、大引は現役にこだわり、球団が用意した花道を辞退し、他球団でのプレーを希望した。

 35歳。現実は厳しく、オファーはなかった。本人の中でデッドラインは12月末をメドとしており、現役引退を決意したという。

 12月13日から3日間、学生野球資格回復研修会が行われた。受講者の中に「大引啓次」の名前があった時点で、ついにユニフォームを脱ぐ覚悟が固まったのか、と想像していた。

 だが、この時点で「その先」を確認するのもどうかと考えたため、思いとどまった。12月30日、報道になった時点で連絡した。高校時代から取材協力してもらい、どうしても「13年間、お疲れさまでした」と、労いの言葉を送りたかったからだ。すると、大引は「わざわざありがとうございます。お世話になりました」と、いつもの律儀な返答だった。

 学生野球の指導に興味がある。2020年2月7日に学生野球資格回復が承認されれば、現場でのアマチュア指導が可能になる。本人さえ希望すれば、すぐに現場に立てる可能性もあるが、当面はグラウンドの外から勉強していきたいと考えている。大学院進学を含めて、見識を広げていきたいという。人を教えるためには、それだけの引き出しが必要。生真面目な大引らしい、堅実な選択である。

 間違いなく、優秀な指導者になる。一つひとつ丁ねいに指導する姿が、早くも目に浮かぶ。

 レギュラーとして華やかな世界を歩いてきた一方で、ベンチを温めることもあり、プロ野球の明と暗を知っている。無類の勉強家。技術だけではない。大引には「教育者」としての高い資質もあると確信する。野球界に恩返ししたい、と語る。第二の野球人生。さらに光り輝くステージが待っていると信じている。野球界発展へ必ず、力になる人材だと思う。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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