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丸4年、栄光から遠ざかる早大。V奪回を目指す小宮山悟監督が「優勝」を口にしない理由

 

主将のプランをすぐさま却下


就任2年目の早大・小宮山監督は練習始動日となった1月5日、2020年シーズンへの抱負を語った


 NPB通算117勝、MLBも経験した早大・小宮山悟監督は就任1年目の2019年を「我慢比べだった」と振り返った。

 ちょうど1年前。旧チームの練習始動日に、部員たちは目標を「日本一」に掲げた。監督として初めてのアマチュア指導。実績から見ても、頭ごなしに言えば簡単であったかもしれないが、指揮官は少し引いた視点で丁ねいに説明した。

「日本一を軽々しく言うものではない。そんなに簡単なものではない。口に出すのであれば、それなりのものを見せてほしい」

 1年間、できる限り、学生の考えを尊重してきた。だが、結果的に春、秋ともリーグ優勝を逃した。言いたいことは山ほどあったが、静観してきたことも一度や二度ではない。しかし、大学生である以上、そして、早大生である以上、自らで考えて動くという主体性だけは奪いたくなかった。早大は2015年秋を最後に栄光から遠ざかり、丸4年にわたる低迷が続いている。

「取り組みが甘い。ただ、(昨年のチームが)それで目いっぱいだったのならば、仕方ない。果たして、3年生以下がどう思ったか? まだ、まだ甘い部分が多々あった。信じたことを大いに反省している」(小宮山監督)

 1月5日の練習始動日。新主将・早川隆久(4年・木更津総合高)は「チームを一つにしたいです」と小宮山監督に提案したが、このプランはすぐさま却下された。指揮官は補足する。

「下のレベルを基準にしたら、チームは機能しません。(チーム方針に従えず)脱落した部員は、置いていくしかない。仮に救いの手を差し伸べたとしても、そんな選手は戦力にならない。仲良しクラブでは、無理。頑張れるかどうかは分からないが、頑張るんだ!! と。へこたれない選手は勝負どころでは必ず、頼りになる。そういう気持ちが持てる学生を作りたい」

時代が変わっても不変の自覚と責任


 小宮山監督がプロで44歳までプレーできたのも、早大での4年間が原点にあるからだという。

「俺は(いつでも、どこでも)ほうれますよ、と。強い気持ちは誰にも負けなかった。それは、石井(連藏)監督から鍛えられたこと。置かれた環境で、知らず知らずのうちに身に付けた」

 現チームの投手陣は「どこに出しても恥ずかしくない投手が、片手以上いる」という豊富な戦力を誇るが、小宮山監督の早大在学中は選手層が厚いとは言えなかったという。先発完投が当たり前。エース・小宮山が来る日も来る日も、マウンドに立つのは、当然の役割であった。プレッシャーも、喜びとして受け止めていた。

 時代は変わり、投手分業制となった。野手もレギュラーと控えの実力差が縮まってきている。野球も年々進化しているが明治、大正、昭和、平成、そして令和となっても「WASEDA」のユニフォームを着る責任と自覚は変わらない。

 昨今のデジタル化やIT化により便利な世の中になった一方で、人と人との接触が減った。投げて、打って、走って、守って、得点する。いつの時代になっても、野球は人間がやるスポーツである。努力した人間にしか、勝利の女神は微笑まない。小宮山監督は練習から勝負に徹する、気骨ある学生の成長を求めているのである。

結果だけを追い求めるのではなく


 指揮官の方針を受け、主将・早川は段階を経た末に、頂点を目指す意向をあらためて示した。

「野球に対する姿勢を磨きながら、結果的に日本一の集団にしたい」

 昨年と同じ「日本一」を見据える中でも、その中身が異なる。結果だけを追いかけるのではなく、過程を大事にしていく。つまり、常日頃からの練習、学校を含めた日常生活にも目を配る。大きな前進である。小宮山監督はV奪回を目指す上で、あえて「優勝」を口にはしない。

「究極のゴールは、ミスをしないチーム作り。ミスをしなければ負けるわけはない。ただ、ミスは付き物だと理解している。そのミスをどのようにとらえるのか? それを考えるか考えないかで、天と地ほどの差が出る」

 就任2年目。我慢の1年を過ごしたが、今年も「もう一度、我慢する」と、部員が推し進めるマネジメントに耳を傾けるという。早大生の能力を認めるからこそ信じる、改革2年目。「1年間で学習しているので、間違っていると判断したものは、正す」。すぐに成功を収められるほど、学生野球の監督とは、簡単な仕事ではない。

 練習始動日、変革の実態をこの目で確認できた。ちょうど1年前のこの日とは、ムードが一変していた。トレーニング中の笑顔は一切なし。安部球場は小宮山監督が追求する「ただならぬ空気」が流れているように感じた。明らかな進歩に、2020年春の飛躍を予感させた。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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