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大学野球リポート

目標の「勝ち点奪取」へ。助監督と3年生右腕、東大親子の挑戦

 

「赤門旋風」時のキャプテン


東大・大久保裕助監督(右)の三男・英貴(左、3年・湘南高)は130キロ右腕。親子で勝ち点奪取と最下位脱出を虎視眈々と狙っている


 創部101年の2020年、東大野球部のスローガンは「挑戦」に決まった。チーム目標は「勝ち点奪取」。昨年11月15日、新たな指導体制となった中で、親子によるチャレンジも始まった。

 新監督に井手峻氏(元中日球団代表)、助監督に大久保裕氏が就任した。大久保助監督の役割は、75歳の指揮官を側面からサポートする立場。1981年春、初めて同時に早大と慶大から勝ち点を奪取した際の「三番・遊撃手」の主将が大久保助監督だった。東大が最も優勝に近づいたシーズンと言われ、今も語り継がれている「赤門旋風」である。「同期の4年生では、7人が前年の旧チームからのレギュラー。神宮の経験だけでは、負けない自負があった。何よりも、メンバーに恵まれました」。個性派集団を束ねたキャプテンシー。「意見はぶつかり合いましたが、目的と目標は一緒だったので、最終的には皆が同じ方向へ進むことができた」。

 東大卒業後は社会人・三菱自動車川崎で3年プレー。「大学では見よう見まねでしたが、社会人で基本に忠実なプレーを一からたたき込まれました。打球へのアプローチから、体の正面に入り、正確な送球。40年近くが経過しても守備の本質は変わらない。井手監督の要望もあり、基本的なプレーの質を上げるよう心掛けています」。

 現役引退後は社業に専念し、2018年に退職。OB会からの就任要請を受け、母校のために尽力する形となった。「勝てるチームを作りたい。守備、走塁ともスキを見せるとツケ込まれるので、そのあたりを突き詰めていきたいです」。

 3年生には右投手の三男・英貴が在籍している。

 小学校時代に在籍した寒川タイガースでは、コーチだった父から野球の基礎を教わった。親譲りの秀才。大久保は神奈川トップクラスの県立校・湘南高、そして東大と父と同じ道を歩んだ。

「湘南か横浜翠嵐で迷ったんですが、部活動も勉強も高いレベルでできる湘南を選びました。洗脳教育ではないですが(苦笑)、中学時代、父と何度か湘南高校のグラウンドに練習試合を見に行きました。ちょうど、受験を考えていた時期で、刺激を受けたのは事実です」(大久保)

 湘南高では1年秋から控え投手としてベンチ入りし、2年秋からエース。3年春に右肩を痛めたことから最後の夏は力を出し切れず、県大会2回戦で敗退している。不完全燃焼だった。

「高校まではプレーしてほしかったですけど、まさか東大でまで継続するとは」と父の顔を見せると、大久保は赤門志望の理由をこう語った。

「文武両道を前面に指導していた、湘南高校・川村(靖)監督の影響が大きいです。『(国公立大でプレーできる)チャンスがあるんだから、野球をやるのが使命。背負っていけ!!』と言われ、監督から背中を押されたのは事実です」

「ともに戦っていくという感じです」


 定期試験では学年10番以内、外部の模試を学内で受ける実力テストでは5番以内。東大には現役合格し、2年春からリーグ戦のマウンドを踏んでいる。昨秋は10試合中9試合に登板した左腕・小林大雅に次ぐ4試合に救援。絶対的エース・小林が卒業し、投手陣は横一線の状況だ。大久保は最速130キロで、スライダー、チェンジアップ、カーブをコーナーに投げ分けるのが持ち味。神宮でのマウンドを通じて「真っすぐと(得意の)チェンジアップを近いコースに投げられれば、レベルの高い東京六大学の打者でも打ち損じてくれる。この効果的な『奥行き』を追求していきたい」と、学習能力を生かせるだけの頭脳がある。今春は「先発して5回を作る」と、より多くの登板機会を狙う。

 父の助監督就任は驚きを隠せなかったという。

「(助監督に)立候補するとは薄々、聞いていましたが、まさか、本気でなるとは……。勘弁してください(苦笑)という思いでしたが、実績から言えば文句なしですし、だからこそOB会も推薦したのだと思います。勝てていない人間は、何も言えませんので……。大学野球で親子で指導者、選手というのは珍しい。貴重な経験です。師弟関係というような堅苦しさは一切なく、フランクな感じです。ガミガミ言うタイプでもありませんので、やりづらさはありません」。大久保は大学入学以降、東大球場の近くで一人暮らしをしており、合宿所の改築が終わる今年3月中旬には初めて入寮する予定。父は神奈川県内の自宅から通い、フルタイムで指導する。

「彼はピッチャーですから、私から直接、口出しすることはありません。(投手出身の)井手監督に鍛えてもらいたいと思います」

 大久保は言う。「井手監督は練習メニューに関しても、選手の意見を尊重してくれる。だからこそ、結果を出さないといけない。自分の初勝利よりも、チームの1勝に貢献したい」。新指揮官への恩返しを固く誓うが、助監督に対しては「ともに戦っていくという感じです」と苦笑いを浮かべる。しかし、この言葉も照れ隠しに過ぎない。東大入学後、父の偉大さを感じたという。

「勝つことの難しさを、体感している」。東大は17年秋に法大に連勝で勝ち点を挙げて以降、1引き分けを挟んで、昨秋の終了時点で42連敗中。1998年春から44季連続最下位と、厳しい戦いが続いている。迎える2020年春。東大で通算4勝を挙げ、プロ経験も豊富な井手監督と、「赤門旋風」の当事者である大久保助監督が空気を変えていきそうだ。

文=岡本朋祐 写真=BBM

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