往年の名二塁手、ロベルト・アロマー(写真)などの守備範囲の広い選手は、現代野球では必要ないところまでアナリティックになってきた。野球振興、若者や子どもたちへの影響を考えたとき、それでいいのだろうか!?
ウインターミーティングでのことだ。2017年のWBCでアメリカ代表を世界一に導き、現在はタイガースのスペシャルアシスタントを務めるジム・リーランド氏がメジャー入りを目指す
広島の
菊池涼介二塁手について「WBCでは投手の菅野(智之)とともに印象に残った。守備の高い能力に加え、右中間に本塁打を打ったし、試合前の打撃練習でも右に左にうまく打ち分けて良い選手だと思った」と振り返った。
ただし獲得に動くかどうかは別問題だった。MLBではシフトを多用し、以前のように二塁手に広い守備範囲を求めないからだ。正面に来たボールを確実にさばいてくれればいい。「パワーをつけて、コンスタントに打てないとこっちに来ても苦労するかもしれない」と指摘していた。
06年のWBCアメリカ代表監督で、以後もテレビ解説でWBCを追い続けるバック・マルチネス氏も菊池の守備力をたたえた上で、「今のMLBではロベルト・アロマーのような守備範囲の広い二塁手を必要としていない」と語っている。
歴代最多の10度のゴールドグラブ賞、アクロバチックな動きで一世を風靡(ふうび)したアロマーですらそうなのである。周知のとおり近年、MLBの野球はアナリティックで大きく戦い方が変わり、最先端のチームはマイク・ムスタカス、マックス・マンシーのようなパワーヒッターを二塁に配置する状況になっている。
とはいえ、長年野球の醍醐味の一つだった二塁手の美技を消してしまって良いのか。「ジ・アスレチック」で主にコミッショナー事務局を担当するエバン・ドレリッチ記者は、ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーがこう話していたと教えてくれた。「人々が、野球が変わってしまっていると言う。今、実際に起こっているのは、監督やGMの決めたことを尊重し、われわれがゲームの変化を許容しているということ。彼らは一つでも多く試合に勝つため必死で戦っている。もちろん私たちは先を見越した行動を取らねばならない。ゲームの変化を管理し娯楽としての価値を失わないようにしないといけない」と。
とはいえ、MLBはタンキング(わざと負ける)も見て見ぬふりをしている。今のMLBではシーズン成績が悪くなることで、上位のドラフト指名権や、より高額の国際選手獲得のボーナス枠を得られる。再建を早めたいチームは、ゆえにタンキングに出る。そういうチームは応援しがいがないし、娯楽としての価値が下がってしまう。
だがコミッショナーは「上がっていくチームがあれば下がっていくチームもあるのが野球。30球団すべて毎年勝つという訳にはいかない」と言ったそうだ。
現場のGMや監督は、優勝するためにプランを立て、何年もかけて実行する。だがそのことで結果的に野球の娯楽性が損なわれるなら、MLBは何かをすべきではないか。MLBの観客動員は2007年の7900万人をピークに年々減少、19年は6849万人だった。
コミッショナーは若い世代にアピールしようと、試合のスピードアップやアクションを増やす必要性を説いているが、ゲームから二塁手の華麗な動きが影を潜めることや、再建チームが勝つ気のない姿勢を見せていたのでは、本末転倒だと思うのだが。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images