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東京五輪金メダル獲得へ稲葉監督が示した3つの方針

 

二番と九番の重要性


侍ジャパントップチームを率いる稲葉篤紀監督は1月17日「全日本大学野球連盟監督会」で特別講演。終了後に取材に応じ、東京五輪への意気込みを語った


 東京五輪での金メダル獲得へ、侍ジャパン指揮官が3つの方針を示した。

 トップチームを率いる稲葉篤紀監督が1月17日、横浜市内で行われた「全日本大学野球連盟監督会」で「人との出会い」をテーマに特別講演した。全国から出席した150人の出席者は約1時間の熱き言葉に聞き入った。

 幼少から現在まで、自身の野球人生を振り返る中で、これまでに接してきた恩師とのエピソードを披露。そこで得た「学び」を、現在の監督業に置き換えて分かりやすく説明した。

 プロ入り後にかかわってきた監督との「出会い」から、稲葉監督の目指す野球観が見えてきた。

 まずは「二番と九番」の重要性だ。

 ヤクルト時代、野村克也監督は一番に飯田哲也、二番に稲葉監督を起用した。「飯田さんが出塁すると(盗塁を警戒して)一、二塁間が空く。ゴロでライト前へ一、三塁にする形を狙っていました。つまり、いかに一、二塁間へ引っ張れるか? 時に『走り待ち』をしなければならず、初球のファーストストライクは見逃さないといけない。配球を読んだり、状況を見ながら攻撃を仕掛ける。野球の奥深さを覚えました」。

 日本ハム時代、栗山英樹監督も二番で起用し、野村監督からたたき込まれた「直感力」が生かされた。だからこそ、二番には「国際試合はあまり点が入らない。立ち上がり、序盤に点が欲しい」と、何でもこなせる対応力ある打者を配置したいという。

 九番の重要性はDH制のパ・リーグの野球の中で得たものだ。一般的に打力が落ちると言われる捕手を九番に置く手も考えられるが、有走者の際には「捕手だと動きにくいので、足とバントができる選手がいれば上位につなぐことができる」とキーマンに指名。世界一へ導いた昨年のプレミア12では二番・坂本勇人巨人)、九番・菊池涼介広島)を据えていたことからも、稲葉監督が掲げるベストオーダーが見えてくる。

選手との「信頼関係」と「結束」


 次に「心中する選手」を持つこと。

 ヤクルトで日本一に輝いた2001年。若松勉監督から開幕前に「1年間、使い続けるから」と、チームリーダーとしての期待を受け、直々のメッセージが送られたという。「僕にかけてくれた。恩返ししないといけないと思った」。同シーズン、好成績を残して、チームの優勝に貢献し、初のベストナインを受賞した。

 侍ジャパン・稲葉監督の船出となった17年のアジアプロ野球チャンピオンシップでは、ソフトバンク上林誠知にこだわった。「(直前の)日本シリーズでは調子が悪く出場機会も少なかった。その悔しさが練習での姿勢に出ていたので『絶対、代えない』と伝えたんです」。上林は韓国との初戦で起死回生の同点3ラン(タイブレークで10回表に3失点したその裏の攻撃)を放つなど、優勝に貢献。国際大会初采配だった稲葉監督としても、選手との「信頼関係」と「結束」を学ぶ機会となった。

 昨年のプレミア12でも、四番に広島・鈴木誠也へ全幅の信頼を寄せていたのが印象的だ。2月には12球団のキャンプ視察をスタートさせる。五輪本番で心中する選手について「現時点では決まっていない」と言いながらも「野手に関しては『この選手』と決めていかないといけない」と、頭の中では描いている。

運を持ってくるために


 最後の3つめは「熱」に尽きる。

 稲葉監督と言えば、現役時代「全力疾走」がトレードマークだった。攻守交代のキビキビとした動きは、多くのファンの共感を得た。根底には日本ハム時代の白井一幸コーチの教えがあるという。

「例えば、30メートルダッシュを全力でやれる選手というのは、運を持ってこられる。持ってきてもらいたい。一生懸命やれば体力、スピード、チームの信頼を得られる。意識一つで変わります。昨年のプレミア12も選手が『世界一になりたい』と、シーズン後で疲れている中でも、侍ジャパンのために全力で動いてくれた。そういった思いが結集したから世界一になれた。五輪も熱いチームでやりたい」

 春季キャンプ視察の目的は一つだ。「練習する姿を見れば、その態度ですべてが出る。ジャパンに対する思いを確認してきます」。2008年の北京五輪では星野仙一監督、09年のWBCでは原辰徳監督、13年のWBCでは山本浩二監督の下で日の丸を背負った。稲葉監督にとって理想の監督像とは? 

「いろいろな人の話を聞いて参考にし、自分の監督像を作っていこうと思います」

 主役は選手。あくまでサポート役に徹する。

「とにかく金メダル。それしかないです。金メダルを獲得して選手たちが喜ぶ姿、選手たちの野球人生が変わっていく姿を見たい。そして野球人口を増やしていく意味でも、親、子どもに野球の素晴らしさを見せていく。本番まで約6カ月、最善の準備をし、いろいろな方たちと出会い、人間性を磨いていきたい」

「出会い」が人を大きくする。稲葉監督は特別講演を通じて原点を振り返り、初心に戻ることができたという。出席者だけでなく、自身にとっても有意義な60分となった。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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