昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 近鉄の新人・太田幸司
今回は『1970年5月4日号』。定価は80円。
ついに殿下が初登板だ。
オープン戦では顔見せもあってか、短いイニングながら毎試合のように投げまくっていた新人・
太田幸司だが、開幕からなかなか登板がない。近鉄の球団事務所には女子学生ファンから、
「オープン戦で酷使しながらペナントレースで使わないのはどういうことですか。近鉄のやり方はあまりに汚すぎる!」
と抗議の電話もあったらしい。
開幕からわずか5試合を消化しただけだが、ファンにすれば「出る出る詐欺」に思えたのかもしれない。
ただ、三原脩監督にとっては、すべて予定どおり。ここまではビジターで、もともと、
「太田は本拠地以外使わない。なにもあれだけの人気者をよそで使う必要はない。それほど他球団にサービスする必要はないでしょう」
と話していた。
そして4月19日、藤井寺での対
ロッテ、ダブルヘッダー第1試合がデビュー戦となる。しかも1対1の8回という緊迫した場面だ。
見事三者凡退。その裏、味方打線が1点を奪い、続投した9回表、太田は同点に追いつかれたが、9回裏に太田の代打で入った木村がサヨナラホームランでプロ初勝利が転がり込んだ。
「勝ち負けよりも一生懸命投げるだけでした。それにしてもあんな場面で木村さんのホームランが出るなんて、ついているんですね。本当にうれしい」
と笑顔、笑顔の太田だった。
ただ、ロッテ選手の評価は低く、
榎本喜八は、
「大したことないよ。だいたい若さがない。変化球にキレがないし、ストレートに伸びがない。今一つの感じ」
と話していた。
この連載を読まれている方は殿下より、黒い霧かもしれない。かなり細々したことも出始めているが、それを書き出すと膨大な量になる。できるだけ、簡潔に行きたい。
西鉄は開幕戦を落とした後、2試合連続引き分け。14日、小倉のロッテ戦で、この年の、そして
稲尾和久の監督初勝利飾った。この試合は延長10回、
伊藤光四郎のサヨナラ弾で勝利し、9回からリリーフした
池永正明が勝利投手。プロ6年目で通算100勝。「100勝なんて、どうでもいい。チームが勝ったことがうれしい」と言った後、絶句し、泣きだした。
新聞、週刊誌は事件についてスクープ合戦となり、世間の風当たりは日に日に厳しくなっていたが、稲尾監督は「ワシはうちに八百長をやった選手がいるとは思わない。采配の手足になってくれているのは、この6選手」と、名前が挙がった選手を使い続けている。
では、またあした。
<次回に続く>
写真=BBM