昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 今回は黒い霧がありません
今回は『1970年5月18日号』。定価は80円。
万博優勝に向け、好調なスタートを切った近鉄。投手陣の牽引車は5月4日時点で5勝1敗の
鈴木啓示。さらに、成績的にはまだだが、新人投手・
太田幸司の“集客力”がチームの雰囲気をいい方向に変えているのも間違いない。
打線の中心は、前年の首位打者・
永淵洋三だ。
カポネのあだ名もあった酒豪選手・永淵は、とにかく練習嫌い。一度、練習開始の1時間前に来たときは「永淵も心を入れ替えたか」とコーチ陣が大喜びだったが、永淵は、
「僕がそんな練習熱心なはずはないでしょ」
とボソリ。練習開始時間を間違えただけだった。
投手では秘密兵器の来日が決まった。18歳の左腕・
サントス。中南米の強国キューバ相手に完封したことがある実力派らしい。
パでは南海・
野村克也新監督の「シンキングベースボール」も注目されていた。
例えば大胆な守備シフトだ。
引っ張りの多い左打者、近鉄・永淵に対し、サードはそのままでレフトが遊撃に入り、内野の右半分に一塁手、二塁手、遊撃手を置く。外野はレフトがガラ空きのままだ。
永淵は決してパワーがあるほうではなく、一、二塁間を抜くヒット、セカンドベース寄りの内野安打が多い打者だけに、このシフトはきつかったようだ。
また、右の長距離打者で、やはり引っ張り専門の阪急・
長池徳二の場合、レフトがレフト線に寄り、センターがレフト寄り、ライトがほぼセンター。ライトの位置にはセカンドが入る。
一、二塁間はガラ空きだが、長池がここを狙うことはまずない。
これにはヘッドコーチ、
ブレイザーのアイデアがベースにある。ブレイザーはキャンプで野村にバントの指導を頼まれ、1時間以上、話し続けたこともあるという。さすがの野村が「10分くらいで終わると思ったのにな。大した男や」と感心していた。
ともに武闘派? 東映・
大杉勝男対西鉄のヘビー級タイトルマッチ? も話題になっていた。
4月28日、後楽園球場での東映─西鉄戦。西鉄の攻撃で、二塁のベースカバーに入った大杉(一塁手)にボレスが荒っぽいスライディングをしたシーンがあった。
怒った大杉がボレスを突き飛ばすと、これにボレスも応戦。大杉がボレスの頭を押さえると、今度はパンチを繰り出してきた。これを大杉が辛うじてよけ、ボレスのパンチが大杉の額を少しかすった瞬間だった。
大杉が繰り出した右のパンチがボレスのあごに入り、口から血を流しながらヒザから崩れ落ちた。
まさにKOパンチである。ボレスもそこはスポーツマン? 起き上がると大杉と握手をして別れた(ケンカ屋としての格の違いを感じたのかも)。
大杉はこの日、4打数4安打。口の悪い記者からは、「あの一発があるから5打数5安打だろ」と言われ、苦笑していた。
ただ……この話、どこかおかしい。相手の腰が抜けるほどのパンチを放ったにもかかわらず、大杉が(ボレスもだが)退場になっていないのだ。
記事にはなかったが、大杉のカウンターパンチがあまりに鮮やか過ぎて、審判には見えなかったのかもしれない。
黒い霧事件の続報もあったが、長くなるので、あしたに回す。
では、また。
<次回に続く>
写真=BBM