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球界の論点

高校球児の球数問題。「1週間500球」はアリバイ作りの感も否めない。だが障害予防を意識する環境変化に意味がある/球界の論点

 

今春センバツから適用


今春の選抜は3月19日に開幕する(写真は昨年のセンバツ開会式)


 日本高校野球連盟は今年から大会期間中に一人の投手が投げる球の総数を「1週間で500球」に制限した。併せて、大会主催者側に3連戦を避けるための日程を設定するよう指導。今春の第92回選抜大会(3月19日開幕、甲子園球場)から実施し、夏の全国選手権大会、地方大会、全国軟式選手権大会などでも適用することが決まった。

 高校球児の球数制限をめぐる議論は、2年前に新潟県高野連が「1試合の球数のメドを100球とする」と打ち出したことがきっかけだった。新潟高野連の突然の独自路線に、日本高野連は困惑。理事会で「特例を認めると都道府県のバランスが取れない。多角的な検討が必要」として先送りを求め、投手の障害予防に関する有識者会議(中島隆信座長=慶大教授)の設置を決定。同会議の答申で球数制限等の方向性がまとまったという経緯がある。

 答申では全国加盟校に対し、(1)積極的な複数投手の育成、(2)週1日以上の完全休養日の設定、(3)正しい知識を身に付けた指導者の育成とライセンス制―、を盛り込み、学童・中学野球でのシーズンオフの導入など高校生にとどまらない球界を巻き込んだ提言もしている。これらの答申を受けた日本高野連の八田英二会長は、「野球界全体が投手の障害予防を真剣に考えている。球数制限に踏み切った意義は大きい」と賛同の意を示した。今後3年間は試行期間。違反のペナルティーは設けないが、指導者が規制から逸脱した行為を選手に求めるのは難しくなった。

 高校野球は特異なスポーツだ。「甲子園で燃え尽きてもいい」と信じる球児も少なくはなく、真夏の40度超の炎天下だろうが、投手は完投し、連投も当たり前の世界。17、18歳では1試合で105球を超えてはならず、81球を超えると4日間は登板不可――などのガイドライン「ピッチスマート」を徹底する野球の本場、アメリカから見れば、まさに「異常」と映るわけだ。

 100年以上もの歴史を持つ高校野球は、日本独特の文化としての側面がある。野球漬けの毎日でボロボロになりながら、腕も折れよとばかりに投げる球児の姿が美徳とされる。状況が過酷になればなるほどファンは熱狂。大げさに言うならば、残酷性を容認した娯楽としての要素がある。ほかのスポーツとは一風変わった構造があり、一部には監督への絶対服従、連体責任、丸刈りなど、軍隊的なにおいも残る。

「科学的な根拠はない」が……


 メディアの責任も大きい。主催の新聞社をはじめ、テレビなどの過熱報道がプレーの本質とは違ったドラマ性を過剰にクローズアップ。球児のケガを負うリスクには目をつぶり、高校野球は年月を重ねながら特殊性を持つ聖域となった。

 昨夏、大船渡高の佐々木朗希投手(現ロッテ)が岩手大会で登板回避し、国保陽平監督らを避難する意見が上がった。決断は本人たちの自由であるにもかかわらずだ。詳しい事情は当事者にしか分からない。球児を守る大人たちは、外野の無責任な声に毅然と立ち向かう勇気も必要だ。

 伝統の継承は大切だ。だが、純粋なスポーツとして時代に適応し、幅広い支持を得るためには、守るべきものを尊重しながら変わらなければいけない。投球過多によるケガは、高校生だけではなく、学童や中学生にも多い。高校野球以外にも影響力がある高野連は、常套句である「教育の一環」の見直しを図り、球児の将来を真剣に考える時がきた。

 1週間500球の制限で考えると、昨夏の全国選手権大会で抵触するケースはなく、3連戦も1例だけ。規制と言うには外枠が大きく、アリバイ作りの感も否めない。「1週間で500球」という数字についても、有識者会議で「科学的な根拠はない」と明言しているように、決定打とはなりそうもない。今後も試行錯誤しながらの改定は必至だろう。ただ、旧態依然だった高野連がルールとして発信し、球界全体が障害予防を意識する環境に変わったことに意味がある。

写真=BBM
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