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【MLB】1951年の望遠鏡、2017年のリプレー映像、サイン盗み今昔物語

 

テクノロジーの進化が進み、最新の器具が作られる中でサイン盗みは形を変え行われてきた。今回はアストロズのGMとA.Jヒンチ監督(写真)が解雇された




 1951年、ニューヨーク・ジャイアンツのボビー・トムソンはブルックリン・ドジャースとの優勝決定シリーズ最終戦で9回裏、2対4からレフトへ逆転サヨナラ3点本塁打、ワールド・シリーズ進出を決める一打だった。

 野球史に残るドラマチックな一撃で「SHOT HEARD ROUND THE WORLD/世界中が耳にしたホームラン」と形容されている。8月中旬、ジャイアンツはドジャースに13ゲーム半もリードされていたが、最後の44試合中37試合に勝つ快進撃で公式戦最終日に並んだ。

 この当時のルールは、公式戦で同じ成績なら3試合の優勝決定戦を行うというもの。最終戦の場所は本拠地ポログラウンド、初の全米テレビ中継の試合でもあった。しかしながら当時から「ジャイアンツは組織ぐるみでサイン盗みをやっている」という疑惑があった。ポログラウンドには、センターの背後にジャイアンツのクラブハウスがあり、望遠鏡でコーチが捕手のサインを覗き見て、ベンチにブザーで知らせていたというのである。

 半世紀を経た2001年、数人の選手がウォールストリートジャーナル紙に証言、疑惑が事実だったと証明された。当時サイン盗みは野球の一部との認識で、ルールでも禁じられてはいなかった。モラルの問題だけ。そこで61年に視力を補う道具、機械類などの使用が禁じられている。

 2017年から19年、アストロズは平均でシーズン104勝と異常に強かった。それは今回明らかになったサイン盗みだけではないだろうが、50年後に振り返れば、トムソンの一打同様、そこがクローズアップされてしまうのだろう。発端はMLBが14年にインスタントリプレーのルールを作り、そのための部屋を設けたことにある。

 さまざまな角度からの精巧なカメラ映像で、球団スタッフが微妙な判定を即座に見直し、監督に抗議すべきか否かを伝える。その中にセンターからの映像もあり、捕手のサインがはっきりと見える。それを見て、サイン盗みに使えると多くの関係者が直感したことだろう。

 17年9月、アップルウォッチなど新しい機器を使ったサイン盗みが発覚、ロブ・マンフレッドMLBコミッショーナーはレッドソックスとヤンキースに処分を科すと同時に、次に同じことをやった球団を厳罰に処すと30球団に警告していた。にもかかわらずアストロズは続けていて17年のポストシーズンを制し、18年は現在が調査中のレッドソックスが圧倒的な強さを見せて優勝した。

 今回の厳しい処分で、リプレーのシステムを使ったサイン盗みは減るのだろう。しかし禁止薬物の使用と同様、完全にはなくならない。プロスポーツは才能に恵まれたアスリート同士がどうしても勝ちたいと必死になって戦うことで、ファンも夢中になって見る。そして人間社会の進化の中で新たに便利なものが出てくればそれをいち早く利用してライバルを上回ろうとし、そして時にやり過ぎる。その繰り返しだからだ。

 絶対に許してはならないと考えることは、1919年のブラックソックススキャンダルのように八百長でわざと負けること。これこそ最大の背信行為で、プロスポーツ界の土台を揺るがすものである。


文=奥田秀樹 写真=Getty Images

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