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【MLB】ダルビッシュ有 アストロズの人たちに実際に聞きたい

 

2017年のワールド・シリーズ第7戦で先発したダルビッシュ(右)は2回、スプリンガー(左奥)に152キロの真っすぐを完ぺきに振り抜かれ2ランを浴び、この回に降板。このときのサイン盗みについて、アストロズに聞いてみたいという



 ノーベル賞を創設した化学者アルフレッド・ノーベルは「この世の中で悪用されないものはない。科学技術の進歩は常に危険と背中合わせ」と話したそうだ。彼はダイナマイトを発明、巨万の富を築いたが、土木工事に使われるだけでなく、大量殺りく兵器ともなり、死の商人と呼ばれた。死後の評価を気にし、遺言で遺産をノーベル賞創設に使うことにしたのである。

 アストロズのサイン盗みも、科学技術の進歩を悪用したものだ。そしてその被害者となったダルビッシュ有投手は、1月18日カブスのファン感謝祭でこう話した。

「(2017年ワールド・シリーズで)打たれたのはクセが見抜かれたからなのか、テクノロジー(ビデオでのサイン盗み)だったのかには興味がある。アストロズの人たちに実際に聞きたい」

 あの年、公式戦中にクセが出た試合がいくつかあり、本人もドジャースも十分に警戒していた。「ドジャースがクセを探そうとしてくれて、第7戦は出なかったと。第3戦は、それっぽいのはあったけど、100パーセント(出ていたわけ)じゃないと。(にもかかわらず)何人かのアストロズの選手は僕にクセが100パーセント出ていたと言ったから、おかしいなと思っていました」。

 ダルビッシュは16年くらいからMLBでテクノロジーを悪用したサイン盗みが広まりつつあることを危惧していた。また17年9月にはレッドソックスとヤンキースが処分され、悪用の疑いも頭にあっただろう。しかしながら当時試合直後の会見では一切言及しなかった。「ボールが滑り、曲がり球がうまく投げられない中、引き出しが足りなかったのがすべて」と自分の力不足を責めていた。

 あれから2年2カ月が経ち、MLBの調査結果が出た。ダグアウトのすぐ側の通路に、センターカメラの映像が映るモニターを設置、捕手のサインを解読し、ゴミ箱を叩くなどして打者に伝えていた。思い出すのはジョージ・スプリンガーに真っすぐをホームランにされたことへのダルビッシュのコメントだ。

「スライダーに角(かど)が出てくれない。スプリンガーのような打者だとなかなか難しい」。しかし、事前に真っすぐか変化球かが分かっていたとしたら角もくそもない。そして投手は打者の反応を見て、その日の変化球のキレを判断するものだ。

「去年もそうだけど、シーズン中何回もワールド・シリーズのクセを見たりはしていた。腑(ふ)に落ちていなくて、何でだろ、どこだろうと。(投球時の)足の入り方とか、いろいろな所を見ていた。今回のことを知って、アストロズの人たちに実際に聞きたいなと。どうせクセが分かっていたとしか言えないだろうけど……」

 ノーベルは「科学技術の進歩は危険と背中合わせだが、乗り越えて初めて人類の未来に貢献できる」と語った。ダルビッシュ自身、トレーニング、栄養などに造詣が深く、新しいアイデアを積極的に試しているが、それはライバルを出し抜くためでなく、自身を成長させていくためだと言う。
「自分をどんどんアップデートする意味で試している。次の日の課題をその日のうちに見つけ、次の日にクリアする。その繰り返し」。結果にこだわって欲張らない。日々の姿勢が大切なのだろう。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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