感情を笑顔に隠した嶋
2月11日の練習後、今季から
ヤクルトに加入した
嶋基宏のインタビューを予定していた。小社で作成している雑誌、高校名門校シリーズ「中京大中京高校」のための取材だった。
しかし、ウォーミングアップ後の記者席で「ノムさんが亡くなったみたいです」の一声で、報道陣は大騒ぎに。球団広報も対応に追われた。ヤクルト監督時代、チームを4度のリーグ優勝と3度の日本一に導いた、
野村克也さんという偉大な方を亡くしたのだから、騒ぎになるのは当然だろう。
現役時代、クローザーとしてヤクルトの黄金時代を支えた
高津臣吾監督らの囲み会見も行われた。野村さんの
楽天監督時代の教え子でもある、嶋基宏の囲み会見もあった。高津監督も嶋も、時折声を詰まらせながら、何度も目元をぬぐう。お世話になった恩師の訃報に、「言葉にならない」「実感が沸かない」と漏らし、目を真っ赤にした。
そんな気持ちが追いつかない中でも、嶋は練習後のインタビューに来てくれた。明る過ぎるくらい明るく振る舞い、時折冗談も挟む。インタビューの内容は中京大中京高時代のものが主だが、嶋は高校から大学、そしてプロでも「恩師に恵まれた」と言った。そして嶋の恩師たちもまた、嶋の人間性を称えている。恩師を亡くしたときでも、プロ野球選手として真摯に対応する。多くの名将に認められた男の“力”が感じられた。
取材・文=依田真衣子 写真=BBM