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今季はDeNAの2選手がプレー。知られざるメキシコのウインターリーグとは?

 

「WBSCプレミア12」で3位の好成績を収め、東京五輪出場権を獲得するなど、注目を集めているメキシコ。同国には夏のリーグとともにウインターリーグも存在するが、冬はどんなリーグなのか。今季、DeNA関根大気外野手の通訳として同リーグに携わった元スポーツ紙記者が、同リーグの特徴や現状についてリポートする。

選手のレベルは夏より高い


かつてロッテ巨人楽天でプレーしたルイス・クルーズ内野手(ナランヘロス・デ・エルモシージョ)の姿もあった。左はヤキス・デ・オブレゴンでプレーしたDeNAの関根大気外野手(写真=福岡吉央)


 1945年に開幕し、75年の歴史を誇るメキシコのウインターリーグ「リーガ・メヒカーナ・デル・パシフィコ」はメキシコの北西部、太平洋側にあるソノラ州、シナロア州を中心に行われている。19〜20年シーズンは10月中旬に開幕。12月末までレギュラーシーズンが行われ、1月の年明けから約1カ月間、プレーオフが行われ、トマテロス・デ・クリアカンの優勝で幕を閉じた。

 今季から2球団増え、10球団で行われたペナントレース。夏のシーズンよりも期間が短いため、争いはし烈だ。レギュラーシーズンは前後期に分けられており、それぞれ順位に応じてポイントが与えられ、そのポイントの合計数上位8チームがプレーオフに進む。外国人枠は前期が8、後期、プレーオフが6。またプレーオフでは準々決勝、準決勝、決勝と進むごとに、敗退したチームから選手を補強できるシステムだ。

 夏のリーグは標高が高い本拠地が多く、気圧が低いことから打球が飛ぶ上に、投手のレベルが低いことから、打高投低と言われるメキシコだが、ウインターリーグは真逆で投高打低だ。今季の全10チームのレギュラーシーズンの平均防御率は3.61、平均打率は.256。一方、夏のリーグの平均防御率は5.77、平均打率は.303だった。夏は76人が打率3割以上をマークしたが、冬はわずか11人。チーム数こそ違えど、その差は歴然だ。

 選手のレベルも夏のリーグよりも高い。夏、メキシカンリーグでプレーしている選手のうち、ウインターリーグでもプレーできるのは約半数。残りの選手はユカタン州などで行われている独立リーグにプレーの場を求める。助っ人はメジャーやNPB経験者が多く、夏のシーズンはメジャー傘下のマイナーチームでプレーしているメキシコ人選手も多い。若手の多くは将来を期待されているプロスペクトで、中堅、ベテラン選手の中にはバリバリのメジャー・リーガーも含まれている。つまり冬はアメリカ組が加わることで、リーグのレベルも上がるというわけだ。

ドミニカ共和国に次ぎ2番目


メキシコのウインターリーグでは毎日、試合前に国歌斉唱が行われた(写真提供=ヤキス・デ・オブレゴン)


 16年にクリアカンでプレーしたヤクルト五十嵐亮太投手はかつて、同リーグのレベルについて「日本の一軍と二軍の間くらい」と語っていた。ヤキス・デ・オブレゴンでプレーするメキシコ代表のホセ・アギラル外野手は「夏よりも冬のほうが投手のレベルは高い。それでも、1打席に1球は厳しくない球が来る。それをいかに一発で仕留められるかが重要になってくる」と明かす。日本のプロ野球では一軍レベルの先発投手だと、失投が来るのは1人の打者に対し、1試合の4、5打席の中で一度だけ、と言われているが、同リーグは日本と比べ、チャンスも多い。

 中南米ではメキシコのほか、ドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコ、パナマ、コロンビア、ニカラグアなどでウインターリーグが行われているが、現在、メキシコのレベルはドミニカ共和国に次いで2番目に高いとされている。選手のサラリーは助っ人で月1万ドル(約110万円)から1万5000ドル(約165万円)程度。メキシコ人選手で2000ドル(約22万円)から数千ドル程度と言われている。短期決戦のため、プレーオフは給料が倍になるというニンジンをぶら下げるチームも多い。

 夏のメキシカンリーグに比べ、球団所在地の地域は狭いが、ウインターリーグは2カード続けてホームゲームということがなく、ホームとビジターが交互に続くため、必ず週に2回の移動を強いられる。夏のリーグと違い、ボールが飛ぶ高地は標高約1500メートルのグアダラハラだけで、他の9球団は低地に本拠地を構える。だが、冬のリーグだけに寒さとの戦いもある。米国との国境沿いにあるメヒカリでは、12月は試合中の気温が氷点下になることも。ベンチにはストーブが設置され、スタンドのファンはニット帽にマフラー、ダウンコート姿で試合を観戦する。

 さらに選手にとって厄介なのが軍の検問だ。ソノラ州、シナロア州は米国にコカインなどを運ぶ麻薬ルート上にあるため、試合後、深夜にバスで移動する際にはもれなく検問所での荷物検査を強いられる。熟睡している深夜3時、4時に起こされることも珍しくない。もちろん翌日は移動先での試合が待っており、選手にとっては体調管理も重要になってくる。

選手の出入りは頻繁


DeNAから派遣された濱矢廣大投手対関根大気外野手の日本人対決も実現した(写真提供=ベナードス・デ・マサトラン)


 今季、日本からはDeNAの関根大気外野手と濱矢廣大投手の2人が同リーグでプレーした。ヤキス・デ・オブレゴンでプレーした関根は序盤こそ外国人特有の動くボールに苦戦したが、一番・中堅の定位置をつかみ、55試合に出場。打率.292、0本塁打、19打点、20盗塁(リーグ3位)、46得点(同2位)とリードオフマンとして活躍。チームはレギュラーシーズン通算44勝のリーグ記録を打ち立て、1位でプレーオフに進出したが、関根の貢献度も大きかった。ベナードス・デ・マサトランでプレーした濱矢は先発として7試合に登板。3勝0敗、防御率1.44。31回1/3を投げ、30奪三振と、決め球となったスプリットへの自信を深めた。ここ数年ではDeNAの乙坂智外野手、楽天の森雄大投手、ルシアノ・フェルナンド外野手、オコエ瑠偉外野手も同リーグでプレーしている。

 各チームのGMにとっては、頻繁に選手の出入りがあるチームに、常に戦力になる選手をそろえておく手腕が問われる。というのも、メジャー傘下の選手は登板試合数や1試合の球数、出場時期に制限が設けられており、フルシーズン起用することができないためだ。時に、9回に登板した抑え投手が球数制限によって、二死から2ストライクを奪った後に降板するという異例のケースもあるほど。助っ人の中には、休養や夏シーズンに向けての自主トレを理由に、プレーオフには出場しない選手も珍しくない。逆に夏のチームが決まっていない選手にとっては、真剣な就職活動の場となる。一方で、シーズンが短いため、選手の見極めも早く、調子が上がらず結果が出ない選手は1週間でクビになることも珍しくない。つまり、10月と1月ではどのチームもスタメンが大きく入れ替わっているのだ。

平均観客数は世界4位とも


ヤキス・デ・オブレゴンでプレーしたDeNAの関根大気外野手。ホームゲームには毎回1万人以上のファンが詰めかける(球団提供)


 メキシコといえば危険なイメージが伴うが、実際、いくつかのチームの本拠地の治安は良くない。麻薬カルテルの拠点があるからだ。過去のデータを見ると、クリアカンやオブレゴンは人口比での殺人率の高さが世界50位以内に入っている。実際、昨年10月にはクリアカンで地元のマフィアグループの幹部を警察が逮捕しようとした際、マフィアグループが銃撃戦で応じたため、警官やマフィアグループのメンバーら計10人が死亡。一般市民も巻き込まれ、地元で開催予定だった試合は翌日に延期された。オブレゴンの選手たちは、弾痕で壁が穴だらけになっているマフィアの家の前を通って、街の外れにある球場に通う。地元出身の選手たちは「マフィアと直接かかわりを持たなければ大丈夫だ」と言うが、当然夜間の外出の際は警戒が必要になる。

 同リーグの入場料はネット裏が3000円、外野が500円程度。国民の平均月収が5万円程度と言われるメキシコの物価からすると決して安くはないが、それでも平均観客数は、MLB、NPB、KBOに次いで世界4位とも言われている。人気チームになると、入場者数が1万5000人を越えることも珍しくない。メキシコではサッカーが一番人気のスポーツだが、米国に近い北西部は野球が一番人気。ファンの応援も熱く、ヒットを打った際のポーズがチームごとにあり、例えばベナードス(スペイン語で鹿を意味する)は両手を頭の上にかざし、鹿の角をかたどる。ヤキスは原住民のヤキ族がチーム名の由来で、ヤキ族が頭に挿していた羽根を右手で模し、スタンドのファンとともに喜びを分かち合う。

 1年のうち、約4カ月間だけの短いリーグだけに、地元のファンも首を長くして開幕を待ち望んでいる。20〜21年シーズンは、優勝チームが出場権を手にする、中南米のウインターリーグNo.1の座を決めるカリビアンシリーズが同国のマサトランで行われるだけに、このオフは例年以上にリーグも盛り上がりそうだ。

文=福岡吉央
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