一昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 虎風荘寮長に警察官?
今回は『1970年8月31日号』。定価は80円。
8月15、16日、東北青森の八戸長根と青森県営球場で東映─近鉄の公式戦が開かれた。
この2戦目は東映の主催ゲームで、当初は神宮で開催予定だったが、太田人気もあって東映が太田の地元青森での開催を7月初めに決めた。
これに乗ったのが、開局間もない青森南テレビ。東映から1試合300万、2試合で600万で興行権を買った。
八戸の入場券はネット裏1800円、内野席1200円。外野は大人も子どもも700円。これは後楽園の内野指定席並みの高額だったそうだが、1万1000枚のチケットは2時間で完売した。
太田人気だけでなく、八戸での公式戦が17年ぶりだったこともあるようだ。
前日の14日、近鉄が八戸空港着。母親のタマラさんは、ロシア料理のピロシキを準備し、実家でそわそわと太田を待つ。
20時に太田が現れたとき、自宅には報道陣がぎっしり。タマラさんはすでに号泣だ。カメラマンから太田がタマラさんにお土産を渡すところを写させてくれ、とリクエストがあり、太田が「それはやめてください」と困り顔を見せると、タマラさんが、
「幸ちゃん、おみやげなんていいのよ。幸ちゃん自身が私たちにとっては最高のおみやげよ」
と助け船を出していた。
三沢高からは、もう一人、
八重沢憲一がドラフト外で東映に入団していたが、15日の試合では家族がスタンドから見守る中、2回二死からプロ初本塁打(プロ2打席目の初ヒット)。「うれしいっす。まさかヒットも打てると思ってもいなかったのに」と涙を浮かべた。
太田は4回から登板し、3イニングを無失点。4回には八重沢との対決もあり、併殺打に打ち取っている。
巻頭グラビアからこの試合の記事だったが、見出しは「ケッパレ! 幸ちゃん」だった。
阪神が虎風荘の寮長に現職の警官をスカウトして話題になった。
兵庫県警川西署刑事課の沼本巡査部長だ。捜査一課に15年勤務したベテランで連続殺人鬼・古谷惣吉を取り調べ、自供させたツワモノという。
球団によれば「兵庫県警にあっせんしてもらった」と言っていたが、そのくらいやばい話が陰ではあったということなのか。
巨人・長嶋茂雄は8月14日現在で打率.281と3割が少しきつくなってきた。そうなると評論家は、
「あごが上がっている」「腰がひけている」「アウトステップしている」と指摘する。いつもそれを否定するのが、
川上哲治監督だ。
「そんなことは本人も知っている。フォームが崩れてもヒットが打てるところに長嶋の本領がある。長嶋はフォームで打つバッターじゃない」
では、またあした。
<次回に続く>
写真=BBM