佐々木朗は日を追うごとにその評価を高めている
正直に言うと、キャッチボールで軽くボールを投じる姿を新人合同自主トレで初めて見たときは、「ぎこちないな」と思った。
ロッテのドラフト1位ルーキー、最速163キロ右腕の
佐々木朗希だ。その印象は石垣島での春季キャンプに入ってからも変わらなかった。
キャンプ最終日に初めてブルペンに入り、沖縄本島での練習試合行脚の中では投球の強度を高めながら圧倒的なストレートの質を見せつけ、日々、評価を高めている。軽いキャッチボールのときとはまるで別物。そこで見せたフォームは高校時代と同じ、滑らかでしなやかなものだった。
なぜそんなギャップが生まれるのか、こちらの見る目がないだけなのか。ロッテの
吉井理人投手コーチに、その疑問を率直にぶつけてみた。言わずと知れた元メジャー・リーガーにして球界きっての理論派。
ダルビッシュ有(現カブス)や
大谷翔平(現エンゼルス)といった現役メジャー・リーガーも指導してきた名伯楽だ。吉井コーチはこちらの印象を否定することなく、こう説明してくれた。
「キャッチボールは腕の振りのスピードが違うので、いいピッチャーほど下手ですよ。下手というか不細工ですね、見た感じが。リリースの位置も(実際の投球とは)全然変わってくるので。コントロールが良かったり、球が速かったりしても、一塁への送球が下手なピッチャーはたくさんいますからね。それはまた別物です」
いいピッチャーほど不細工――。
同時に吉井コーチはいかに佐々木朗のストレートの質が高いか、それを生み出すメカニックや再現性の高さが優れているかを解説してくれたのだが、ただでさえ滑らかな上に再現性の高い投球フォームに目が慣れれば慣れるほど、決して自動化されているわけではなく、リリースの位置にもばらつきが生じる軽いキャッチボールとの間に見る者はギャップ、ぎこちなさを感じてしまうということなのだろう。
「試合になればいろいろなシチュエーションが出てきて、いろいろなことが起こる。だから勝てるか勝てないかは別にして」と前置きした上で、吉井コーチは“令和の怪物”と称される18歳をこう評した。「ストレートは一軍で通用するボールだと思います。すでに一軍クラスのボールは投げている」。
素材の良さは認めながら未知数だったフィジカル面への先入観もあって、一軍の舞台で真価を発揮するのは少し先の話だと誰もが思い込んでいた。だが、“いいピッチャー”であることを実戦の中で証明する日は近い――。佐々木朗は自らの力で、そうした雰囲気を確実に生み出しつつある。
文=杉浦多夢 写真=高塩 隆