今春から母校・拓大を率いる馬淵烈監督。明徳義塾高・馬淵史郎監督の長男である
あまりに、謙虚すぎる。とにかく、腰が低い。
今年6月で31歳。拓大を率いる馬淵烈監督は明徳義塾高・馬淵史郎監督の長男である。
父は甲子園歴代4位タイの51勝をマーク。2月19日には、侍ジャパンU-18代表における高校日本代表監督の就任が発表された。キャリア豊富な指揮官と比較されるのは覚悟の上だ。しかし、父の母校でもある拓大を指揮する息子は、決して背伸びしない。
「父とはまったく別世界。比べられるレベルにもありません。高校と大学ではステージも違いますし、全力でやるだけです」
苦労人である。高知県須崎市内、明徳義塾高の学校敷地内にある野球部合宿所の隣が実家だ。全国常連校でありながら、馬淵監督は高校3年間で一度も甲子園の土を踏んでいない。3年夏は主将として名門校をけん引したが、県大会決勝で涙をのんでいる。
拓大では4年間、東都大学二部リーグでプレー。4年秋に24年ぶりの二部優勝を遂げたが、中大との入れ替え戦では1回戦で先勝しながら、2、3回戦で連敗と、神宮で悪夢を味わっている。四番・三塁の馬淵監督は14打数4安打と攻守でけん引も、力及ばなかった。
2012年から4年プレーした社会人・シティライト岡山でも、何度も全国大会を目前にして出場を阻まれた。15年限りで現役を退き、拓大からオファーにより同12月にコーチ就任。昨秋まで14年率いた内田俊雄監督の下で指導者としての勉強を積んだ。二部優勝した昨秋は駒大との入れ替え戦に進出したものの、連敗と「戦国東都」の厳しい現実と直面した。
「負けて、負けて……。私の野球人生は、大事なところで負けています。このままでは、終われない」
今年は創部100周年。目標は聞くまでもなく「二部優勝→一部昇格」のはずだが、馬淵監督はあえて、明確なビジョンを示さない。新指揮官は学生と日々、真正面から向き合うことを最優先している。練習はウソをつかない。
「とにかく一生懸命、皆でやろう! と。足元を見ながら、一歩ずつ進んでいきたい」
話を聞いていると、思わず、愚直な人柄に引き込まれてしまう。練習を見ていれば、指導を受ける学生からの信頼も伝わってくる。取材中は謙虚な言葉を並べながらも、胸中は反骨心がメラメラ……。名将のDNAを継ぐ、若き勝負師のさい配から目が離せない。
文=岡本朋祐 写真=BBM