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川口和久WEBコラム

吉田輝星、投手は打たれてナンボ。思い切っていけ!/川口和久WEBコラム

 

失敗を恐れず、行こう!


吉田には何かやりそうな雰囲気はある



 3月6日、日本ハム2年目の吉田輝星がオープン戦の阪神戦に登板した。
 あの夏以来の甲子園のマウンドだったというが、ボール自体は球威があったし、低めに決まる小さいスライダーは公式戦でも使えそうだ。
 何かしてくれそうな雰囲気がある選手だし、今シーズンは楽しみだね。あとは経験値を積み上げ、佐々木朗希ロッテ)、奥川恭伸ヤクルト)らとともに、どんどん一軍で活躍してほしい。

 ただ、気になったのは、少し自信なさそうに見えたこと。
 要は高校時代と比べ、フォームがこじんまりとして見えた。
 
 高校生投手で甲子園で150キロ以上を投げていた逸材が、プロで140キロ台しか出なくなるケースはよくある。
 楽天安樂智大がそうだよね。高校時代の豪快さがなくなって正直を言えば、普通の投手になった。

 みんなしたり顔で「甲子園の酷使が響いた」と言いたがるが、俺はそういう面がないとは言わないけど、むしろ育成の意識が大きいのかな、と思っている。

 高校時代は若いから体も柔らかく、肩の可動域も広い。甲子園の大舞台ではアドレナリンも出ているからスピードも出る。ただ、同時にフォームには欠点が多く、プロのコーチはどうしても直したくなる。
 直すのはいいが、短所ばかり矯正しようとすると、どうしてもフォームが小さく、まとまったものになる。

 もう1つはストライクゾーンの問題。高校野球とプロではまったく違う。以前も書いたが、ドーナツの穴がプロで、外枠が高校生と言えばいいのかな。その中でストライクがほしい、打たれたくない、と思い、自分自身でフォームを小さくしてしまうことがある。

 俺が若手にいつも言っていたのは「投手は打たれてナンボ」ということ。全打者に打たれず、全球ストライクゾーンの四隅にきっちりなんて絶対に無理。せっかく持っている可能性を自分で削ってしまうのはもったいない。若いうちは失敗を恐れず、思い切って腕を振ってほしい。

 吉田に関しては、日本ハムはかなり慎重なプランでやっているし、順調なほうじゃないかな。注文をつけるなら、あの夏の甲子園のピッチングみたいに怖いものなしの躍動する投球が見たい。

 もう1つ気になるのは札幌ドームのマウンドかな。
 メジャー仕様ということでかなり硬くしているようだが、それで死ぬ選手もいる。身長や体重がない中で下半身をうまく使いながら投げているタイプだ。吉田も少し違和感があると思う。

 硬いマウンドは下半身を使いづらい。メジャーでは体重が軽い日本人投手がこのマウンドに苦しみ、結果的には体重増を図る。重ければ、多少、グリップできるからね。

 典型的だったのがメジャーに移籍したときの松坂大輔だ。

 渡米前の彼は踏み出す足を内側にしぼるようにして前に出していた。地面に着いてからも柔らかめの土が掘れてブレーキになるから、そこで粘って、上半身をもっていく間があった。

 それがメジャーの硬いマウンドではできなかった。
 体重が軽かった松坂は硬いマウンドでは足が滑りやすく、それでも器用なタイプだから、すっと足を置くだけのフォームに修正した。
 ただ、これでは間がつくれない。上体を早く持っていかなければならず、結果的に極端な担ぎ投げになり、肩に負担がかかった。
 何年かは活躍したけど、結局、肩を壊し、日本では逆に元に戻すのに時間がかかった。
 
 別に硬いマウンドが悪いとは言わない。
 世界基準ということだからね。ただ、昔のような下半身で粘りながらのフォームの投手が苦しくなり、上体のパワー次第になりかねない。それもちょっとロマンがないな、と思う。

 少し脱線した。
 吉田が高卒2年目とは思えぬ素晴らしい球を投げていたのは事実だ。今の日本ハムの先発は、ほぼ有原航平しかいない。吉田が先発ローテに入ってくる可能性は十分にあるし、俺は故障さえしなければ、それなりに勝てると思っている。
 あえてアドバイスするなら、繰り返しになるが、
「打たれてナンボ! フォームを小さくするな。躍動感のある、お前らしいフォームを忘れないでくれ」かな。
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