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【MLB】MLBにおける女性コーチの可能性

 

MLB史上初の女性コーチに就任したジャイアンツのナッケン。いろいろな球団の思惑での抜てきではあるが、パイオニアとして活躍に期待したい



 今季ジャイアンツで新たに92番のユニフォームを着ているのは女性である。アリッサ・ナッケン、29歳。大学時代はサクラメント州立大でソフトボールで活躍。一塁手を守り、184試合に出場し打率.304、19本塁打、フィールディングパーセンテージは.992だった。大学卒業後、ジャイアンツのインターンに。同時にサンフランシスコ大でスポーツマネージメントで修士号を取得した。

 以後フロントの仕事を手伝ってきたが、聡明でコミュニケーション力に長けていると評価されていた。そして1月、メジャーのフルタイムのコーチに採用。女性では初の快挙だった。役職名はアシスタントコーチだ。

 ゲーブ・キャプラー監督は「どの球団でも職場環境がパフォーマンスに大きく影響する。ほかのコーチの手伝いをし、クラブハウスの文化を育むのが役割」と説明している。この採用には、社会的な配慮があったとも言われている。ジャイアンツが昨年11月キャプラーを新監督に任命したとき、多くの女性ファンが怒って試合のボイコットを口にした。彼がドジャースのファームディレクター時代、マイナー選手の犯した2度のレイプ事件をもみ消そうとした前科があったからだ。

 ナッケンをMLB史上初のフルタイムコーチとしたことで、ジャイアンツが女性のことを尊重していますよと対外的にアピールしたかったのだ。思惑通り、民主党の大物政治家でアメリカ史上初の女性下院議長となったナンシー・ペロシは「ナッケンのコーチ就任は素晴らしいニュース。彼女のこともジャイアンツのことも誇りに思います」とツイートした。

 ウインブルドンを6度制した女子テニス界の重鎮ビリー・ジーン・キングも同様の感想を述べている。ジャイアンツには今13人のコーチがいるが試合中ベンチに入れるのは7人だけ。ナッケンは入れない6人の一人だ。試合前、ユニフォームを着て、打撃練習で投げたり守備練習を手伝ったり試合での戦略を話し合ったりする。と同時にクラブハウスの文化や精神風土を育む。

 昨年10月アストロズのアシスタントGMが、クラブハウスで女性記者に暴言を吐いたが、何よりも批判されたのは事件を甘く見てすぐに対処しなかった球団の姿勢。ナッケンを男社会の中に入れ、偏見を改め、なれ合いの甘さを是正していく考えだ。ちなみにヤンキースも昨年11月、マイナー球団のフルタイムの打撃コーチとしてレイチェル・バルコベックを採用した。彼女も元ソフトボール選手で、大学で修士課程を取った。カージナルスやアストロズのマイナーチームで、ストレングス&コンディショニングコーチを務め、話題のトレーニング施設ドライブラインで働いた経験もある。

 ベルコベックは長年プロ球団で働く夢を持っていたが、レイチェルと名乗るだけで面接もしてもらえず、女性は取らないとはっきり断られたこともあったそうだ。「でもそれが結果的に良かった。もっと頑張らねばと思えたから」と振り返る。今、2人はパイオニアとしてスタート地点に立った。野球界でどんな成果を上げるか、これからが楽しみである。


文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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