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球界の論点

“藤浪ショック”が日本球界に与える影響を考える/球界の論点

 

プロ野球選手初の感染



 収束の見込みがまったく見えない新型コロナウイルスは、ついにプロ野球界にも衝撃を与えた。阪神は3月27日、藤浪晋太郎投手にウイルスの陽性判定が出たと発表。伊藤隼太外野手と長坂拳弥捕手の感染も明らかにした。阪神の揚塩健治球団社長は、「感染拡大防止のために国民を挙げて取り組んでいる中、皆様方に不安やご心配をおかけして申し訳ございません。複数名の発症を大変重く感じています」と陳謝。プロ野球選手としては初めての感染は、各方面に大きな影響を及ぼしそうだ。

 揚塩社長によると、藤浪、伊藤隼、長坂を含む阪神の7選手が、同14日に大阪市内で知人5人の計12人(後日、13人以上と訂正)で会食。その後、コーヒーの香りがしないなど嗅覚の異常を感じた藤浪が、複数の病院を訪れ、コロナ感染の疑いが出た26日にPCR検査を受診。嗅覚や味覚の異常を訴えていた伊藤隼、長坂とともに感染していることが分かったという。

 感染経路等は特定されていないが、3人が同じ会食に出席しており、球団はその場で感染した可能性を否定しなかった。揚塩社長が「今思えば、外出禁止とかもう少し厳しく臨んでいたほうが良かったのかなという反省もある」と悔やんだように、選手の事態の認識だけではなく、球団管理の甘さが浮き彫りとなった。

 入院した3人の症状は重くなく、順調に回復しているという。藤浪は当初、コロナ感染という意識はなかった。しかし、コンディショニングには人一倍気を遣っていることもあり、嗅覚という体の変化に疑問を持った。それまでのコロナ感染の症例は、セキや発熱、倦怠感などが伝えられていた。藤浪は医師の指示でPCR検査を受ける際に、「もし嗅覚や味覚がおかしくなるのが感染の初期症状なら、広く知ってもらえるいい機会になる」として、球団に実名報道を希望。自粛ムードの中で取った軽率な行動に非難の声も挙がっているが、「隠さず、つまびらかに」と考えた事後対応だけは的確だった。

「藤浪ショック」がプロ野球に与えた影響は大きい。中日は伊藤隼らと二軍の練習試合で接触した2選手の自宅待機を指示。阪神の選手が利用したビジター側のロッカールームを中心に消毒作業を行った。感染拡大でペナントレース開幕はひとまず4月24日に延期されていたが、今回の件で日本野球機構(NPB)と12球団関係者から「4月24日の開幕は難しい」という観測も続出。ユニフォーム組の感染第1号が確認され、さらに事態が拡大する恐れも出てきたことで、開幕が再びずれ込む可能性が出てきた。

労使間でこれまで以上に緊密な連携と備えを


 プロ野球は観客の入場料や放映権を主な収入源とする。このままではリーグ戦やクライマックスシリーズ(CS)、日本シリーズの通常開催にも影響は必至。人命に関わる緊急事態とはいえ、プロフェッショナルの現実問題としてダメージは計り知れない。大幅減収は球団経営に波及し、オフの年俸闘争にも響きそうだ。興行であるプロ野球にとって、先の見えない活動停止は経営の破綻につながるだけに頭が痛い。

 エボラ出血熱や後天性免疫不全症候群(AIDS)など20世紀に新興感染症が発見され、21世紀に入ってからも重症急性呼吸器症候群(SARS)など致死性を伴う感染症の流行が後を絶たない。未知のウイルスや細菌などによる感染症の脅威は、グローバル化が進み、往来が激しくなった現代ならではの脅威で、今回で終結するとは思えない。リーダーには、想定外の災難を予防・対策を図りながら、いかに経済活動を止めないかの方策が求められている。

 年俸決定の判断基準となる査定方法の見直しが迫られるだろうし、トレードや戦力外通告の球団の根拠にも異議が持ち上がりかねない。全日程が消化できないとすれば、登録の年数や日数が絡むフリーエージェント(FA)等の条件はこのままでいいのかという意見も出るだろう。現在、日本プロ野球選手会は静観の構えで具体例には踏み込んでいないが、避けられない大きな課題となるのは間違いない。国際オリンピック委員会(IOC)のように、12球団で大規模イベントに対する保険に加入するのは可能なのか道を探る手もある。国難とも言える事態にさらされたプロ野球は、労使間でこれまで以上に緊密な連携と備えが必要になってきた。

写真=BBM
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