一昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 人間に限界はない
今回は『1971年3月1日号』。定価は100円。
恒例の選手名鑑号だ。表紙の中央、巻頭も南海の新人・島本講平だった。
ただ、島本以上の注目“新人”は
ヤクルトの、新人ながら移籍経験ありの
荒川堯だ。
湯之元キャンプの打撃練習では場外弾を連発。外国人のロバーツでさえ、フェンスまでがやっとの中で、とにかく飛ばしていた。
三原脩監督は、
「間違いなく大物ですわ。中西(太)が入団したときは、確かに遠くへ飛ばしましたが、確実性がなかった。タイプは豊田(泰光)と似ています。しかし、センスの良さは問題にならないです」
比較された
中西太コーチも、
「ボールを呼び込んで打つから変化球でも十分対応できるはずだ。欲を言えば、もう少しセンター方向に打つ気持ちがほしい。でないと、引っ張るだけの悪い癖はつく」
と話していた。
自費で夫人とともにキャンプ地で滞在している義父・
荒川博は、
「現在の体調ではまずまずといったところだ。ちょっと太り気味だから腰がシャープじゃない。走り込めば、もっと鋭さが出てくるはずだ」
と話し、さらに
「道には行き止まりがない。野球選手としても立派になってほしいが、これからプロ野球をめざす若者に、やればできるという見本も見せてほしい。欲張りな話だが、私が見込んだ男なのだから、きっとやれるはずだ」
と加えた。
荒川博に同行していた合気道の住田師範は、こういう。
「オヤジさん(荒川博)は場外へ打つことなど問題にしていない。ダウンスイングの可能性は無限の境地に打ち返すことだと説いている。合気道の世界でも、ある程度道を究めた人には、一振りで相手の命を絶つようにと教える。人間のやることには限界がないんですよ」
何だか武道の世界のようになっている。
荒川は、義父が提唱するダウンスイングを純化させたタイプだったようだ。
荒川の愛弟子・王貞治はダウンスイングと言ってもバットの出方の問題で、実際の映像などを見るとスイング時代は、むしろきれいなレベルだった。
対して荒川のダウンスイングは、振り下ろすことを意識しすぎなのか、体が前に動き、開きも早い。これでは高めの甘い球は飛んでも低めの変化球を拾うのは難しいだろう、という声もあった。
巨人が宮崎キャンプで地元の小学生との交流会を開き、質問コーナーがあった。
「7連覇の自信はありますか」
川上監督が元気よく立ち上がり、
「あります。7連覇どころか、私は15連覇くらいしようかと思っております」
と答え、会場がわく。
また、話題の多い三原監督のヤクルトについては。
「三原さんは確かに大監督でありますが、三原さん一人が野球をするわけではありません。チームとチームの戦いです。選手が三原さんの思い通りに動くようになるには、まだ時間がかかります。果たして、今のヤクルトが、どこまでやれますかねえ」
と答えていた。
巨人監督就任当時、三原(当時は大洋監督)に同じようなことを言われていた川上だが、さすが6連覇の監督、余裕が出てきた。
では、また月曜に。まだまだ自粛が続きますが、運動不足や家に閉じこもってばかりでは体の毒です。
人ごみを避けつつ、太陽の下での適度な運動をお勧めします。
<次回に続く>
写真=BBM