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プロ野球20世紀・不屈の物語

近鉄の死闘“10.19”/プロ野球20世紀・不屈の物語【1988年】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

第1戦は梨田の適時打で希望をつなぐ


第1戦の9回、梨田の適時打で鈴木が生還して近鉄が勝ち越した


 プロ野球を語る際、ついつい「日本中が熱狂した」「列島を沸かせた」などと表現をしがちだ。実際にはプロ野球に興味がない人も多いし、贔屓のチームから優勝の可能性が消えれば興味を失ってしまうファンも少なくなく、大げさな表現という批判は甘んじて受け入れざるを得ない。ただ、この試合に対して、この比喩を使ったとしても、それほど大げさではない気がする。

 1988年。人気を集め始めていたとはいえ、まだまだセ・リーグには届かないパ・リーグで、しかも”閑古鳥の巣”などという揶揄もあった川崎球場で行われたダブルヘッダー。優勝の行方が決まる試合にもかかわらず、当初はNHKラジオが中継するのみだった。それが、球場にはファンが押し寄せ、その熱狂はラジオを通して列島を駆け巡り、どんなに興奮する場面でも予定された時間だけ放映を延長するもののブッツリと野球中継を打ち切ってきたテレビ局を動かして、その試合の情景を多くの人が目にすることになったのだ。それは、セ・リーグの野球しか見ないというファンだけでなく(テレビ地上波ではセ・リーグ、特に巨人戦ばかりが中継された時代ではあるが)、プロ野球を見ないという人をも振り向かせたのではないか。

 10月19日。この日、まず阪急がオリエント・リースへ球団を売却するという衝撃のニュースが走った。昭和という時代が、そう遠くない日に終わることを誰もが感じていた時期でもある。プロ野球の歴史も転換点を迎えていた、そんな日のことだ。ダブルヘッダーを戦うのは、すでに最下位が確定していたロッテと、あと一歩で黄金時代の西武から王座を奪う位置にいた近鉄。近鉄が優勝する条件は、この最終戦ダブルヘッダーに連勝することだった。規定では、第1試合は9回を終わって同点の場合は打ち切り。つまり延長戦には持ち込めず、まずは第1試合で9回までに勝たなければならなかった。

 そんな第1試合が始まる。まず1回裏、ロッテが愛甲猛の2ラン本塁打で先制。一方の近鉄は勢いがなく、4回表まで三者凡退を続ける。この日の初安打となったのが5回表二死。鈴木貴久のソロで1点を返すも、6回表、7回表も三者凡退に終わり、7回裏には再び突き放された。それでも、続く8回表には一死から鈴木の右前打から四球を挟んで代打の村上隆行が適時二塁打を放って同点に追いつき、9回表も一死から淡口憲治の二塁打に鈴木の右安打で二、三塁として、勝ち越しのチャンスを作る。だが、代走の挟殺で二死二塁に。そこで代打に送られたのが梨田昌孝。優勝の経験がなかった時代から司令塔を担い、初優勝、連覇を経て、このシーズン限りで現役引退を決めていたレジェンドのバットは粘り強かった。執念の打球は詰まりながらも中前打となり、鈴木が生還。その裏をエースの阿波野秀幸が二死満塁のピンチを脱して、第2戦へと希望をつないだ。


第2戦で立ちはだかった“時間の壁”


優勝を逃しながらも毅然とした態度で球場を後にした仰木監督


 すぐに第2戦が始まる。規定は延長12回まで、ただし4時間を超えて新しいイニングに入らないというものだった。やはり先制したのはロッテだったが、近鉄は6回表にオグリビーの適時打で同点、7回表には吹石徳一真喜志康永のソロ2本で2点リードと突き放す。だが、その裏にはロッテも2点を返して同点に。それでも8回表にはブライアントのソロで再びリードを奪い、その裏には阿波野がマウンドに立つも、ロッテも疲労の隠せない阿波野から高沢秀昭が同点ソロ。試合を振り出しに戻す。

 9回表には二死から大石第二朗が左遷二塁打を放つなど近鉄も粘るが、無得点。その裏、交錯プレーを巡ってロッテの有藤通世監督が9分間の猛抗議、これが近鉄に“時間の壁”を突きつける。テレビ朝日系『ニュースステーション』での中継も始まっていた。ブラウン管は近鉄ナインの死闘を、そして涙を映し出す。試合は延長戦に突入したが、10回表、近鉄は無得点。すでに試合開始から3時間57分が経過していた。この時点で、近鉄の優勝は幻となる。

 ただ、このドラマには続きがあった。近鉄が描いた不屈の物語は、2年にわたってファンを魅了していく。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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