一昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 阪神寮長の涙
今回は『1971年3月8日号』。定価は90円。
南海の新人・
島本講平の二刀流キャンプがスタート。
連日、ピッチング、バッティング、外野ノックとハードなトレーニングが続いていた。
「一人で二役でも三役でもできたら最高や。それを今試しているのや」
と
野村克也兼任監督。のち
オリックス時代の
イチローのオールスター登板、
日本ハム・
大谷翔平に対する発言から「二刀流否定派」の印象もあると思うが、真逆だったようだ。
島本自身は野手に興味があるようだし、評論家連中の投手・島本への評価は辛い。
しかし、野村監督は、
「投手としては期待できないというが、そんなことはない。本格的に投げさせてみないと分からん。うちは左投手が足らんのや。もし島本が投げられたら投手陣の回転が楽になる。それに投げないときは打力を生かして外野を守ったっていいやないか。両刀使い、大いにけっこうや。これからのスターはそのくらいじゃないとあかん」
前回の
巨人・
川上哲治監督の「時間がかかるのでは」発言に対する
ヤクルト新監督・
三原脩の反論もあった。
「確かに巨人の強さは別格だ。しかし選手というものは、ONは別とし、本格的にはそう変わるものじゃない。川上君は三能選手(攻守走)がそろっていることを前提に言っていると思うんですよ。確かにうちには三能選手は少ないかもしれない。しかし、三能を兼備してなくても、一能を持った選手を3人組み合わせることによって、三能の力を出すことができる。二能を持った選手と一能を持った選手を組み合わせることでも三能に代えることはできます。私はそういう使い方には自信があります」
と話していた。
阪神の沼本合宿寮長。警察OBで、刑事時代、殺人鬼・古谷惣吉を自供させたことでも有名だった。2月16日、神戸地裁が古谷に対し、死刑を求刑したとき、
「古谷をつかまえたとき、犯行を否認していたが、ワシが罪のつぐないをしなきゃいかんと説得すると自供した。少年時代の環境など同情する余地はあったが、8人も殺したのは許されんからなあ」
としんみりした口調。
「だがな、自分が刑事時代の関係した男が死刑求刑になると、やはりさびしいもんだよ」
と目にうっすら涙を浮かべて話していた。
では、またあした。
<次回に続く>
写真=BBM