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週べ60周年記念

外国人選手の暴言はなぜ退場にならなかったのか/週べ回顧

 

 一昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。

一枝修平の退場に罰金がなかった理由は


表紙は南海・島本講平



 今回は『1971年5月17日号』。定価は90円。

「分かっていたけど、寂しかった」 
 巨人末次民夫が言う。4月27日の新聞の打撃欄では.515で打率1位だった自分の名前が28日の新聞では規定打席に達せず、消えたことだ。
 21日、中日戦で川畑和人から受けた死球は、左手甲に当たった後、下アゴをかすめた。左手甲は骨折だった。
 末次は、「狙ってきたとしか思えない」と憤る。
 中日戦は17打数12安打、なんと打率7割6分だった。
 もともと春男と言われ、序盤はいいが、そこから落ちるケースが続いていた末次。それだけに「今年こそはそれを返上する」という思いが強かった。
 死球禍は毎年のように問題になり、前年は阪神田淵幸一が死線をさまよった。この年から打者のヘルメット着用が義務となっている。
 
 表紙の「あほんだら2万円」、「突き倒し5万円」は退場後の罰金の話。「あほんだら」は近鉄の土井正博が際どい球のストライクの球に激高。
「この下手くそ野郎。アホンダラ!」
 と球審に悪態をついた際のもの。「突き倒し」は前回書いた阪神・村山実監督のものだ。

 罰金なしの退場もあった。
 4月14日の中日─巨人戦(中日)だ。9対6と巨人がリードしていた8回、菱川が打席に入ったところで、ベンチにいた中日・一枝修平が「真ん中しかストライクを取らんから真ん中しか打つな」とヤジ。これでカチンと来た岡田球審が中日ベンチに来て、
「今、言ったのは誰だ」
 すると、一枝が躊躇なく、「はい、僕です」で退場になった。
 すぐ、中日ベンチが「なんでこれが暴言なのか」と猛抗議。特に森下コーチがカッカしていたようだ。その後、岡田球審がマイクで球場内に「一枝が暴言で退場」とアナウンスし、いったんは収まった。
 しかし、試合後、この流れを報道陣に説明していた岡田球審のもとへ私服に着替えた一枝がやってきて、
「退場は構わないが、僕が岡田さんに暴言は言っていない。そんなふうに新聞にも書かれたくないから撤回してくれ」
 と要求。岡田球審も最終的には「森下コーチをはじめ、ほかの連中のほうがひどいヤジは言っていたが、たまたま君が手を挙げたんで犠牲になったんだ」と正直に話した。

 また、問題になっていたのは、外国人選手の暴言だ。ストライク、ボールのジャッジですぐカッとなって審判に何やらまくしたてるが、まず退場はない。
 要は、日本の審判が、彼らが何を言っているか分からないからだ。
 平光審判は「語気からして暴言とは分かるのだが、何を言っているのか分からないからなあ。あれが分かるようなら外人相手に貿易商をやってますよ」と、これも正直に話していた。
 唯一、戦後、米軍基地で通訳もし、ボクシングのランキングボクサーでもあった露崎審判には、外国人選手も一目置き、誰も暴言ははかなかったという。

 では、またあした。

<次回に続く>

写真=BBM
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