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プロ野球20世紀・不屈の物語

財政難のパ・リーグ、太平洋とロッテが禁断の“炎上商法”/プロ野球20世紀・不屈の物語【1973〜74年】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

最高の左腕と最強の鉄腕との投げ合い?


現役時代の国鉄・金田、西鉄・稲尾


 今風に言えば“炎上商法”だろうか。病気もつらいが、財政難もつらい。命あっての物種とはいえ、お金がないのも困ったものだ。だからといって、魔がさしてはいけない。あぶく銭を稼ぐための炎上商法には一切の同情はできないが、これが最低限の生活を送るためであれば、いけないとは思いつつも、つい同情してしまう。黄金時代を過ぎ、1970年代に入って辛酸をなめた西鉄については紹介した。西鉄は73年に太平洋として生まれ変わったが、経営難は変わらず。そして、おそらくは、魔がさしたのだろう。

 球場トラブルにも流行というものがあるようで、西鉄ラストイヤーでもある72年には「球場に爆弾を仕掛けた」という脅迫事件が目立った。もちろん悪質なイタズラだったのだが、模倣犯は模倣犯を呼び、球場に警察官がいる光景も見慣れたものとなり、しだいにスタンドは殺伐としていって、それはグラウンドにも伝播した。もちろん、太平洋の本拠地で、戦後になって平和を願って名づけられた福岡の平和台球場も例外ではない。むしろ、かつての西鉄“野武士”たちの拠点であり、周囲には血気さかんな博多っ子たちが大勢いる球場は、他の球場に比べて、ひとたび小さな火をつけようものなら、大火事につながってしまう危険性をはらんでいた。勢いづいた火の行方は、そう簡単に制御できるものではない。

 金田正一といえば、国鉄からV9元年に巨人へ移籍して、プロ野球記録の通算400勝を残した左腕。稲尾和久といえば、連投に次ぐ連投で西鉄に黄金時代を築いた鉄腕で、やはりプロ野球タイ記録となるシーズン42勝を残した右腕だ。ともに現役時代は50年代から60年代にかけて。迎えた70年代、2人の名投手は、金田はロッテの監督として、稲尾は西鉄から続いて太平洋の監督として対峙する。

 当時は巨人を除く11球団にとって財政難は慢性的であり、特にパ・リーグの球団は深刻だった。そんなチームを率いる2人の監督たちの間に、73年の開幕を前に「舌戦でパ・リーグを盛り上げよう」という密談があったという。西鉄から「男の意地」でライオンズを買い取った太平洋の中村長芳オーナーは、72年まではロッテのオーナーだったことも“遺恨”を演出しやすい要素だったのだろう。ただ、ここに誤算があった。自らの投球だけでなく、それによって試合もコントロールしてきた2人の大エースをしても、ファンについた火の勢いまではコントロールできなかったのだ。これが、いわゆる太平洋とロッテの“遺恨試合”へとつながっていく。

4試合で9万人を動員したが


74年5月23日の試合後、観客に向けてバットを振り上げるロッテ・金田監督


 近年も観客がグラウンドにメガホンを投げ込むことがあるが、当時の投げ込まれるものといえば空きビン、空きカンが主流(?)だったが、こうした暴挙は、やはり太平洋とロッテとの試合でも勃発する。これを受けて金田監督は暴言、それに中村オーナーが厳重抗議の名目で挑発。これが6月1日からの平和台での4連戦における大炎上につながる。この4連戦は約9万人の観客を動員したが、空きカンはコントロールがつかないからと中身が入ったまま投げられ、それは投石にエスカレート。大人の暴挙を真似て石を投げる子どももいた。この騒動に機動隊が出動。試合を終えたロッテのナインは囚人護送車で宿舎へ“護送”されている。

 懲りないのは太平洋だ。翌74年4月に捕手の宮寺勝利が金田監督と本塁クロスプレーを巡って乱闘。その写真を使ったポスターを福岡市内に貼りだし、博多っ子たちを挑発したのだ。そして5月23日、平和台での3連戦の3試合目、太平洋が敗れて試合が終わると、太平洋ファンが暴発する。ロッテのナインは、今度は装甲車で宿舎へ避難。これに対して警察庁が異例の警告を出したことで、ようやく騒動の鎮静化が始まった。

 不屈の物語ではないのかもしれない。美談でもないが、深刻な財政難という事態に立ち向かっていこうとしたのは間違いないだろう。ただ、最終的には自力で制御できない状態にまで深刻化したことも事実。いまの我々も多方面での戦いが続くが、魔がさしても負けないことだ。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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