週刊ベースボールONLINE

夏の甲子園回顧

「がばい旋風」で頂点へ。「感触はまだ手に残っている」逆転満塁弾/07年決勝・佐賀北対広陵【夏の甲子園回顧】

 

スライダーを見事にとらえて


2007年夏、佐賀北高と広陵高による決勝。佐賀北高は4点を追う8回裏、押し出しで1点を返すと一死満塁から、副島が左越えの逆転満塁本塁打。「がばい旋風」で、全国制覇を遂げた


 夏の甲子園で公立校が全国制覇を手にしたのは2007年の佐賀北高が最後である。センバツも09年の清峰(長崎)以降は、私学が覇権を手にし続けている。

 深紅の大旗をかけた頂上決戦。佐賀北高が対戦した広陵高(広島)にはのちに、野村祐輔(明大−広島)、小林誠司(同大−日本生命−巨人)、土生翔平(早大−元広島)、1学年下の上本崇司(明大−広島)と4人のプロを輩出した伝統校だ。一方、佐賀北高は県立高校。7年ぶり2回目の出場で、目標は「甲子園で校歌を歌うこと」だった。

 開幕試合となった福井商高との1回戦で悲願の甲子園初勝利。宇治山田商高(三重)との2回戦で延長15回引き分けの再試合を制して勢いに乗る。前橋商高(群馬)との3回戦を突破して8強進出。強豪私学との対戦となった帝京高(東東京)との準々決勝では延長13回サヨナラ勝ち(4対3)を収める。三番・副島浩史が1回戦に続く今大会2本目の本塁打を放って勢いづくと、長崎日大高との準決勝は3対0で制した。三塁手・副島、四番・捕手の市丸大介(のち早大、東芝)が堅守と勝負強い打線で援護し、左腕・馬場将史からエース・久保貴大(のち筑波大、ジェイプロジェクト、佐賀北高の監督として昨夏の甲子園出場。今年4月から鹿島高に赴任)へつなぐ必勝リレーが確立していた。

 無欲で勝ち上がってきた佐賀北高。広陵高との決勝は7回を終えて0対4と劣勢だった。エース・野村から1安打と、ほぼ完ぺきに封じられていた。しかし、8回裏に試合は動く。一死から連続安打と、連続四球で1点を返す。二番・井手和馬の押し出し四球を、ネクストで見守っていた副島はこう回顧する。

「井手の遊撃の守りには絶大の信頼がありましたが、打撃のほうは……。(一死満塁で)『振るな!!』と心の中で願っていました。手を出して併殺の可能性もある。結果的に四球を選んで『絶対、打ってやる!』と」

 まだ、3点差。だが、場内は異様なムードに包まれていた。公立校が強豪私学に挑む構図。しかも、甲子園のマンモススタンドは、劣勢チームを後押しする風潮がある。打席に立った副島は落ち着いていた。三塁側アルプスから左翼席まで、ものすごい手拍子である。

「かなり集中していました。周りの音(応援)は、何も聞こえませんでした。三振してしまったらどうしよう……ではなく、打ってやる! という気持ちしかありませんでした」

 過去3打席はスライダーにタイミングが合わず、2三振(1四球)。この第4打席、1ボール1ストライクからの3球目。狙い澄ましたスライダーを踏み込み、思い切りバットを振った。大きな弧を描いた打球は左翼へ、真夏の青空に高々と舞い上がった。

「帝京戦は手ごたえ十分でしたが、決勝ではそこまでではなかったので、全力疾走しました。レフトが見送ったのを見届けて、ホームランと確信しました。生還後、ようやく大歓声が耳に入りました。感触? まだこの手に残っています。テレビで甲子園を見るたび、13年前の光景を思い出します」

 甲子園最終打席での逆転満塁弾は、副島にとって高校通算10号。佐賀北は5対4で全国4081校の頂点に立ったのである。

監督として再び旋風を


 副島は福岡大を経て佐賀銀行に入行するも、保健体育科教諭を目指すため14年7月に退職した。4度目の採用試験を突破し18年に唐津工高に赴任。野球部副部長を経て、同11月から監督に就任した。目標はもちろん、甲子園出場だ。

「(佐賀北の)百崎(敏克)に先生が高校在学当時言っていましたが『私学を倒すのが、公立校の醍醐味』だと。僕たちが『番狂わせ』をしたように、勝ったチームが強いんです。それが、高校野球の原点。全国の人たちも、魅力を感じる部分だと思います。もう1回、あの舞台で旋風を巻き起こしたいと思います」

「がばい旋風」再び――。13年前の甲子園で名勝負を刻んだ副島が、公立校としての存在感を示そうと意気込んでいる。

文=岡本朋祐 写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング