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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

ルーティンの真意──

 

イチローのルーティンにも確かな意味がある


 3つのアウトを奪うと、やや飛び跳ねるように左足からラインをまたいでベンチに引き揚げる──。オリックス山岡泰輔の登板試合を見るたびに、この行動が気になっていた。単なるゲン担ぎなのか、もしくは何か意図があるのだろうか。本人に聞いてみたことがある。

「いや、あれはクセなんです。だから、いつからやり出したかも自分でも分かりません。それに、僕はルーティンを作らないようにしているんです」

 クセとルーティン。この2つが大きく異なる点は、動作に対する意味の有無だ。ルーティンは、集中力を高めるものや、体の動きをスムーズするために行うものなど、それぞれの目的に応じた動きを指す。ただ、その“ルーティン”を作り出すことのデメリットもあると山岡は言う。

「絶対にコレをして、次にアレをする。そう決めてしまうと、できなかったときに不安になるじゃないですか。マウンドでもルーティンをつくってしまうと、それができない状況に直面したら、どうするのか。技術とかは関係なく、変に不安になってしまうんです。だから僕はルーティンを作らないんです」

 そんな山岡と似た考えを持っていたのが、同じオリックスに所属する吉田正尚だ。彼もまた、ルーティンに対する確かな考えを持っていた。それは「ルーティンは“何かのため”という狙いがあって生まれるもの」ということだ。

 イチローの、あの有名なルーティン(写真)も、バットを立てた後に一度バックスクリーンに視点を合わせ、それからバットを見て、最後に焦点をピッチャーに移し、集中力を高めていたもの。そこには確かな理由がある。さらに、吉田正尚は言う。

「ルーティンというのは、物事をスムーズに行うための“準備動作”。野球選手で言えば『物事=プレー』です。バットをスムーズに出すため、守備で最初の1歩を早く切るため──。確かな狙いがあるのがルーティン。でも、ルーティンそのものを意識してしまうと、本来、意識すべきことに意識が向かなくなる可能性が出ててきてしまう。意識して行ってしまえば、それは、たぶんゲン担ぎに近くなると思うんですよね」

 吉田正は打撃でのルーティンを2つ持っている。1つは打撃に入る前に大きく2度スイングすること。それも1度目は上から下へ振り下ろすようにスイングし、2度目はややアッパー気味にスイング。異なるスイング軌道で打席に入る“準備”を整えている。

 2つ目は打席に入った後だ。捕手側の打席のラインをバットのヘッドでなぞり、立ち位置を固める。そこから投手に視点を定めた後、ホームベースの外角、内角、そして内角の投手寄りにバットのヘッドをポン、ポン、ポンと置く。

 このルーティンが固まり出したのはプロ2年目あたりからだという。

「常にフラットな気持ちを保つには、いつも同じ動きを“無意識”で行えるようになることが一つの道だと思うんです。とくにプロ野球は、ほぼ毎日試合がある。連戦が続く中で、いつも同じ状態を維持するためにも、心地いいルーティンが自然とできてきたんです」

 だからこそ“リズム”を大事にしている。打席内でホームベースの3カ所にバットのヘッドを置くのは、ストライクゾーンやポイントの確認というよりも、“リズム感”を生み出すため。「リズムよく行えば、意識せずに一連の動作を行いやすくなりますから」。

 ルーティン、クセ、そしてゲン担ぎ──。それらは似て非なるもの。プロ野球の開幕延期が続く今、テレビやネットで過去の試合が放映されており、観戦するファンも多いだろうが、すでに勝敗がついている試合なだけに、観戦の着眼点を選手の“ルーティン”に向けてみてはどうだろうか。そこには一流選手の高い“意識”が隠れている。

写真=BBM
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