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【MLB】サイン盗み、なぜ選手が処分を受けないのか?

 

ビデオリプレーオペレーターのワトキンスだけがサイン盗みで処分を受けたレッドソックス。ケネディ球団社長は会見で終始言葉を濁した


 2018年のレッドソックスのサイン盗み事件で処分を受けたのはビデオリプレーのオペレーター、 JT・ワトキンス、30歳だけだった。12年のドラフト10巡指名捕手で、16年に現役引退、以後は球団のスタッフとして働いていた。

 キャリアを積み始めて間もない若手である。「スケープゴートにされたのでは?」との質問にサム・ケネディ球団社長は「それはMLBに聞いてほしい。調査をしたのはわれわれではないので」と返答している。

 ワトキンスの役割の一つは過去の試合を調べ、その日の相手バッテリーが使う2、3とおりのサインのシークエンス(連続性)を解読しておき、試合前に選手たちに教えること。そこは違反ではなく、相手も過去に使っていたものがそのままだと解読されていると分かっているから、変更して臨む。

 やってはいけないことは、試合中にリプレー室の映像で、その試合用に変更されたシークエンスを解読して選手に伝えること。リプレールーム→ダグアウトと伝達され、走者が二塁に行ったときに、捕手のサインを覗き込んで打者に球種を教える。

 ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーは「選手たちが、ワトキンスがサイン盗みにリプレールームを使っていたと証言、情報の90パーセントは試合前からのものだが10パーセントは試合中のビデオからだった」と説明。

 ワトキンス本人は全面的に嫌疑を否定しているそうだが、処分となった。ワトキンスが20年は停職、21年はリプレールームで働いてはならないとなった。チームへの処分はドラフト2巡指名権のはく奪のみ。当時のアレックス・コーラ監督が20年は停職処分だが、これは17年アストロズのベンチコーチ時代に違反を働いた責任を取らされたものである。

 このニュースが報道され、一般的な反応はGMと監督が停職処分で、即、解雇され、チームとしても2つの一巡、二巡指名権のはく奪、さらに500万ドルの罰金となったアストロズとの著しい差である。

 17年9月、MLBが電子機器を使ったサイン盗みで初めてレッドソックスとヤンキースを罰したとき、コミッショナーはビデオリプレー用の部屋をサイン盗みに使ってはならないとし、次に同じことをしたら厳罰に処すと明言していた。

 そのため今回のレッドソックスへの処分は拍子抜けの感が否めない。だが筆者が抱いた一番の違和感は、今回もサイン盗みで得をしたはずの打者たちに一切おとがめがなかったことだ。

 その理由は、今回のコミッショナーオフィスの調査は、選手ないしは選手会の協力なしに進まないため、選手に免責を与えていたから。知っていることを正直に言えば罰は与えないとしていた。そして表現は悪いが下っ端のスタッフが責任を取らされた。

 18年、レッドソックス打線はチーム打率.268、得点数876、OPS.792と、30球団トップだった。選手は成績を上げて給料も上がった。なのに彼らは罪に問われない。

 思い出すのはステロイド時代。選手会が選手のプライバシーを守るために薬物テストを阻止し、結果的に薬物がまん延した。選手会はMLB機構に協力し、今後は選手が違反行為の責任を取るように変えていかないと、問題解決には向かっていかないと思うのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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